そのうち、インドネシア・バリ島に2016年にオープンした「マンダパ」で総支配人を務めるのが、細谷真規氏。リッツ・カールトン日光の立ち上げ時に総支配人を務めたのち、2022年3月に、リザーブ初の日本人総支配人として抜擢された。
ホテルの建設ラッシュが続く日本では、活気付くツーリズムやインバウンドに対してサービススタッフ不足が深刻だ。その一方、バリ島では、ホテルのサービス希望者が多いという。総支配人以外は100%現地スタッフというラグジュアリーリゾートを束ねる細谷氏に組織づくりを聞いた。
「神々が宿る島」と呼ばれるバリ島の人々は信心深く、土着のアニミズムとヒンズー教が混じり合った宗教を信仰している。特に山に神々が住むと考えてきたことから、山深いウブドは神聖な土地であり、数々の伝統文化が残されている。また、それに惹きつけられたアーティストが暮らすなど、バリ島の芸術・文化の中心地としての存在感を放っている。
このマンダパにも、そんな美意識が継承されている。伝統建築を生かした高い天井のロビーを抜けると、まるで1つの村のように、伝統建築のヴィラが点在し、その合間に水田が広がる。
もともと、このリゾート自体が一つの集落だったため、リゾートの一角には、昔から伝わる神殿がある。今でも年に一度の大きな祭りの際には、リゾートを村の人に解放し、近隣から多くの人がお参りに来るという。ここは、今も村の文化の中心地でもあるのだ。
リッツ・カールトン・リザーブのサービスは、人と人との深いつながりを感じる、一歩踏み込んだ「ヒューマン・コネクション」が特徴だが、信心深く、周りの人を大切にするバリの人々は、そんなサービスの提供をするのに相応しい人格を備えているという。
とはいえ、このマンダパで雇用している人の半分以上が、この州出身で、島から出たこともなく、西洋的なラグジュアリーの文化にも馴染みがない。「ここで提供しているような料理をこれまで食べたこともなかった」というようなスタッフも少なくない。
その状況で卓越したサービスを提供するにはどうすればよいか。まず細谷氏が取り入れたのが、「ラウンドテーブル」という制度。週に1度、8人のメンバーが選ばれ、細谷氏と共にホテルの朝食を食べる。普段の仕事で思うことを、直接総支配人と話すことができるのみならず、通常のゲスト同様のサービスと共に食事を味わうことで、ゲストの側からの視点を持つことができるというわけだ。