中国政府はこの会談を利用して、米国とEUの間にくさびを打ち込むつもりだったに違いない。だが、そうはいかなかった。今回の会談では、EUの対中姿勢が米国のそれとほぼ一致していることが示された。
2019年の会談を振り返ると、4年という歳月がいかに大きな違いを生み出すのかを感じさせられる。前回の会談では写真撮影の際に笑顔があふれ、両者の協力全般、特に鉄鋼分野での協力を含む3000語におよぶ共同声明が発表された。声明には、高速大容量通信規格「5G」網の共同開発や、南シナ海と東シナ海の緊張緩和に向けた取り組みなどが盛り込まれた。EUも中国も、ロシアとウクライナの意見の相違を交渉するに当たってミンスク合意を支持し、中国の新疆ウイグル自治区を含む世界中の人権問題を巡って協力すると表明していた。特に2019年の首脳会談の直前にEUは中国を「制度上の競争相手」と指定していたため、会談の友好的な雰囲気は、両者が親善と協力を継続する証として受け止められた。
ところが今回の首脳会談に関する報道では、4年前の言葉がまるで別世界のものであるかのように聞こえる。会談の規模は大幅に縮小され、中国側からは習近平国家主席と李強首相が、EU側からはシャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)とウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長の4人だけが顔を合わせた。また、4年前の首脳会談を飾った参加者全員の笑顔の写真撮影もなかった。
習首席はEUを通商関係や技術協力における「重要な相手」と呼び、互いを「競争相手」と見なす必要はないと主張したが、一方のEU側は経済・外交上の問題点を中国側に突きつけた。欧州はすでに論調を変えるための舞台を整えていたのだ。EUは新疆ウイグル自治区での人権侵害疑惑を巡って中国に制裁を科すとともに、関税の賦課につながりかねない中国政府による電気自動車生産への補助金についても調査すると事前に発表していた。欧州随一の経済大国であるドイツは、中国の華為技術(ファーウェイ)を5G網から追放すると警告していた。