今月初旬クラウドファンディングを募ると、2日間で寄付額1000万円を達成。小泉今日子や森達也監督、ヤン・ヨンヒ監督など映画界に関係する名だたる人々が呼びかけ人となり、いまも寄付が広がり続けている。新館を準備する永吉直之と仁藤由美にその舞台裏を聞いた。
名古屋ディープカルチャーの象徴
2023年7月、長年の常連客や映画ファンから惜しまれつつも、ミニシアター「名古屋シネマテーク」は1982年の開館から41年で幕を下ろした。シネマコンプレックスのような大きな映画館では見られないヨーロッパの映画や社会派なドキュメンタリーなどで賑わい、ライブハウスや飲食店の多い今池のカルチャーシーンの象徴だった。筆者自身にも思い出がある。2016年に、ヤクザの日常に密着した異色作「ヤクザと憲法」(東海テレビ制作、土方宏史監督)をここで観た。席数40席のこじんまりとしたシアターは超満員。通路に所狭しと置かれた臨時のパイプ椅子に座って見たドキュメンタリーは内容もさながら、その場の空気感までよく覚えている。小さな空間のスクリーン上に投影された、モザイクなしのヤクザのシノギの現場はより臨場感があり、釘付けになった。
名古屋の独立系ミニシアターといえば、今池の名古屋シネマテーク、名古屋駅からもほど近い現役のシネマスコーレ、元劇場で2000年代から映画館となった名演小劇場の3館だった。だが、今年春に名演小劇場も無期限休館ののち、11月29日には正式に閉館が決まった。ミニシアターに思い入れのある筆者にとっても、ショックだった。
50時間後、1000万円達成 発起人も驚き
そんななかで12月初めに発表された、名古屋シネマテークが新館ナゴヤキネマ・ノイとして「復活」するというニュース。改装工事や機材整備のため、クラウドファンディング・プラットフォーム「MOTION GALLERY」で1月末まで寄付を募っており、12月22日午前時点で985人から計1766万円超の寄付金が集まっている。発起人の永吉にとっても想定外の反響だった。「クラウドファンディング開始から約50時間後には目標の1000万円を達成し、本当にびっくりしました。既存の映画館の窮地を助けるためのクラウドファンディングの成功事例はあるそうですが、新館ではあまりない事例のようです。開館の詳しい時期や、どんな映画を上映するかもまだ決まりきっていないなかで、目標額は小さく、100万円ずつ積み上げた方がいいのかなとも考えていたのですが......」(永吉)
ただ、歌手で俳優の小泉今日子や、ドキュメンタリー監督の森達也、大島新、映画監督のヤン・ヨンヒ、俳優で演出家の柄本明──名だたる監督陣や俳優から、地元カルチャーの担い手まで120人以上の人たちが呼びかけ人としてこのプロジェクトを応援している。全国的にも今年はミニシアターの草分けだった東京の岩波ホールや、大阪のテアトル梅田なども相次ぎ閉館し、寄付者は全国に広がっている。