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2024.01.04 08:00

トランスクリエーション:AI時代に必要な哲学と共感のデザイン

morph transcreation 代表 小塚泰彦

小塚:「室町時代に大成した能の世界では平安時代や鎌倉時代の文芸を扱うことが多いのですが、例えば世阿弥作の『屋島』という演目は平家物語をもとに翻案されています。能はそもそも中国大陸から伝来した散楽や猿楽、曲舞、田楽などが時代や地域、文化や政治に応じて「翻訳」され新たに創造されたもので、私はそれを成し遂げた世阿弥がトランスクリエイターの元祖だと位置付けています」
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私達の先祖は芸事や辞書の編纂の際に、その時代にあった表現にトランスクリエーションを行なっている。生成AIの波は、新たなトランスクリエーションの必要性を後押ししているようにも感じられる。

そして、「共感」や「新たな概念や文脈作りの編纂」などの人間にしかできないことを探すと同時に、AIとともに探るトランスクリエーションの必要性も小塚氏は語る。

小塚:「AIと人間、双方の創造性を互いに拡張し合うことを拡張創造性と呼んでみています。そして拡張創造性がもたらすこれまでになかった問いに現在向き合っています。創造性は人間の専有物だと頑なになるのではなく、新しい創造性とは何か?を柔軟に考えていくべき時だと思うのです。
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先述のヴィクトール・E・フランクルが人生からの問いかけに応答し続けよと語ったように、AIが実装されていく時代からの問いかけに応答し続けることが、人間の創造的な営みを意味づけていくような気がしています。そのためには、トランスクリエーションを「広告コピーの翻訳」といった一つの役割に留めずに、あらゆる領域の人たちと、トランスクリエーションが必要な言葉やモノやサービスは何か?あるいはもっと壮大に、トランスクリエーティブな文明とは何か?などと新たな問いを見出していきたいですね」

哲学とデザインを融合し、世界をリフレーミングするトランスクリエーションという技法は、私たちに常に「問い」の視点を持ち続ける大切さを教えてくれる。この「問い」を持ち続けるためには、自分の中の違和感を持ち続けることも大事だろう。何かおかしい、何か窮屈だ、と心がザワザワするところにこそトランスクリエーションの効果が発揮できるものがありそうだ。急速に進むテクノロジーの発展の中で、テクノロジーの波に溺れるだけではなく、波を楽しみながらも感じる違和感にこそ人間の創造性が発揮できるキッカケが潜んでいそうだ。

トランスクリエーションという考え方、技法が世の中に広まることにより、時代に則した言葉やデザインというものを生み出していけそうである。今回の取材だけでは物足りないので、より多く「トランスクリエーティブに考えていくべきことは何か?」を考える機会を作っていきたい。この記事を読んでくれた読者にも、私同様にAI時代に必要な「トランスクリエーション」の必要性を少しでも感じてもらえたならば幸いである。

連載:ポリネーターが見る世界の景色
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文=西村真里子

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