結果、支援が必要な人に生理用品を無料配布する政府予算が46億円、予備費から13億円が計上されたのだ。支援で当然、人々の暮らしは変わる。予算額以上の社会への波及効果が見込まれる。そうしたPoliPoli発で起きたムーブメントに、ゲイツ財団は注目した。
「気候変動の分野ではグレタ・トゥーンベリをシンボルに若い世代の関心が集まっていますが、ゲイツ財団が注力するグローバルヘルス分野は、ビル・ゲイツや U2のボノなど、シニアな世代が引っ張ってきたこともあり、次世代のムーブメントがまだ起きていません。その課題の突破口を探すゲイツ財団からみて、伊藤さんは日本を代表するチェンジメーカーであり、今後も連携を深めて、共に課題解決をしたい存在でした」(柏倉)
かつて伊藤は、ゲイツ財団のロンドンチームのミーティングに呼ばれたことがあった。オーディエンスはイギリスを中心にヨーロッパのアドボカシーに関わる財団メンバー約30人。Goalkeepersの会場で交流したチェンジメーカーと同様に、彼らにも「国民、特に若者の声を政策に届けるサービス」は非常に珍しく、革新的なサービスであると映った。
ゲイツ財団ロンドンチームは、伊藤から何を学びとろうとしたのか。日本から伊藤をロンドンチームに繋いだゲイツ財団プログラムオフィサーの小山有沙はこう分析する。
「イギリスをはじめとしてヨーロッパは、伝統的なアドボカシー活動が、非常に浸透している国々です。官公庁、民間企業、非営利など、多様なセクターを人材が自由に行き来する『リボルビングドア(回転ドア)』と呼ばれる文化があり、セクター間が対話を重ねながら、政策づくりが行われています。一方で、必ずしも、若者や社会的に弱い立場にある人々から声を吸い上げられているわけではありません。大学卒業後にアドボカシーを専門とするキャリアを歩むことは一般化してはいますが、社会にそうした専門人材がいくらいても、若者の声は可視化されない限り、政策には反映されることはありません。ロンドンチームはそうした課題解決へのヒントを得るために、伊藤さんをミーティングにお呼びしたのだと思います。ロンドンチームからの感想も、PoliPoliのやっていることはやはりイノベーティブで、アイデアジェネレーションの種を得る貴重な機会となったというものでした」
アドボカシーの分野で世界に遅れをとる日本。そこから新しい発想で生まれたサービスだがらこそ、伝統的なアドボカシー観に囚われた国々を革新する可能性を秘めている──伊藤は世界への展望を次のように語る。
「世界中の政策を軸にした全ての課題解決に、PoliPoliとして貢献したいと思っています。まずはインドネシアから。若年層の人口も多い民主主義国家だからこそ、出せるインパクトがあると思っています。ニューヨークから帰ってきたばかりですが、来月はジャカルタに行きます」