それまでの日本のゴジラ映画は英語に吹き替えられて細々と上映されたり、VHSのレンタルビデオ時代にはわずかな流通をしたりしていたようだが、あくまでサブカルであり、マイナーな存在だった。
それが20世紀末にハリウッドで初めて『GODZILLA』(1998年)が製作されると、徐々にメジャー化していき、以降、GODZILLAが登場するハリウッド映画が4本も製作されることになった(2024年にはもう1本公開される予定だ)。
そして、この今回の『ゴジラ-1.0』のアメリカでの大ヒットは、一躍ゴジラの人気を決定的なものにした。
ハリウッド映画へのオマージュも
実は、筆者はいまだに『ゴジラ-1.0』か『シン・ゴジラ』、どっちが良かったかと個人的に悩んでいるが、あのシリーズとしては日本国内では最大の興収82億円を挙げた後者ででさえ、ラスベガスで映画館にかかったのはたったの1日だけだった(最近では『シン・ウルトラマン』も『シン・仮面ライダー』も1日だけ)。それが、今回の『ゴジラ-1.0』が圧倒的な人気と評価を得ているのは、サブストーリーとなっている特攻隊の生き残りのその後の苦しみというパーソナルな物語がアメリカ人にもよく理解されているからかもしれない。
また、その間接的だがこの作品が持つ強い反戦のテーマが、出口の見えないウクライナ紛争や、アメリカの国内問題にまで発展しているイスラエルとハマスの戦いに対する厭世観とつながったのではとみることもできる。
アメリカでは、『ゴジラ-1.0』は、海外の観客も視野に入れて映画づくりをしたのではという指摘がネットにたくさん上がっている。山崎貴監督もそれを否定していないと聞く。製作元の東宝でも、最近、グローバルマーケティングチームも立ち上がったらしいので、その指摘は当たっているかもしれない。
もしそうだとしたら、明らかに成果を挙げた場面や手法が『ゴジラ-1.0』にはあった。それは、山崎監督がハリウッドへの敬意を示し、自分が好きな映画のシーンをオマージュとして再現しているところだ。
筆者が気づいただけでも、ゴジラが海面すれすれを泳ぐところは『ジョーズ』(1975年)だし、人間をくわえては放り投げるのは『ジュラシック・パーク』(1993年)、旧帝国海軍を支援してゴジラと戦おうとする民間の漁船団は『ダンケルク』(2017年)だ。筆者が話を聞いたアメリカ人の観客はみなこれに気がついている。
これは、これまでアメリカで上映された日本映画には見られなかったもので、遠い日本の映画文化とハリウッドのそれが具体的にスクリーン上でつながったことを見せてくれた。