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2023.12.15 08:30

「嫁ブロック」を突破し100億ドル企業を作った米IT大手Okta創業者

Okta共同創業者兼CEOのトッド・マッキノン

妻が夫の転職や独立に待ったをかけることを意味する「嫁ブロック」という言葉は、日本のスタートアップ界隈では広く使われている。安定した大企業の職を捨てて、起業の夢を追おうとする夫を妻が阻止することはよくあるが、その状況は海の向こうシリコンバレーでも変わらない。

企業が利用するクラウドの認証情報を統合的に管理するソリューションで快進撃を続ける米Okta(オクタ)の創業者でCEOのトッド・マッキノン(52)も、そんな嫁ブロックに直面した起業家の1人だ。今から約15年前、IT大手セールスフォースの上級幹部だった彼が、会社を立ち上げようと決意したのは37歳のときのこと。

当時、生後6カ月の娘の子育てに追われていた妻は「クレイジー」だと言って猛反発した。しかも、彼が起業を決意したのは2008年の金融危機の真っ只中。テレビは1日中、リーマン・ブラザーズの破綻を筆頭とする米国経済の暗いニュースを流し続けていた。

それでもマッキノンは諦めなかった。企業のクラウド利用が勃興期にあったその当時、今こそが会社を立ち上げる千載一遇のチャンスだと考えた彼がまず最初にやったのは、十数ページにおよぶPowerPointのプレゼン資料を作って、妻を説得することだった。

「Why I’m not crazy.(私がクレイジーではない理由)」と題したそのプレゼンで彼は、オラクルやマイクロソフトといった世界的企業の多くが、リセッションの最中で始動したことを挙げ、優れた人材を低コストで獲得できることが、不況下の起業のメリットだと説明した。

「もう1つの説得材料は、仮に事業がうまく行かなくても、少なくとも2年ほどは暮らしを支える十分な蓄えがあったことでした。最悪の場合は、元の職場に戻るという選択肢もあると説明して、なんとか妻を説得したんです」(マッキノン)

そんなエピーソードからもわかるとおり、37歳という遅咲きの年齢で会社を立ち上げたマッキノンは、決して破天荒なタイプの起業家ではない。サンフランシスコのベイエリアで育った彼は、子どもの頃からビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといったテック業界の巨人の成功を身近なことに感じてきたが、起業を急ごうとは思わなかった。

「1つの職場に長く務めるタイプだった」と語る彼は、ソフトウェア会社PeopleSoftで8年間、セールスフォースで6年間、合計14年間におよぶ会社員生活を経て、会社を立ち上げた。

タイミングがすべて

「タイミングがすべてだったと思います。もちろんハードワークや、優れたチームに出会えたことが今の成功の原動力になったとは思うけど、最終的には、正しい市場を選んで正しいタイミングでそこに参入したからこそ、今の成功がある。言い換えれば、どんなに一生懸命やっても、どれほど優れたスキルがあっても、成功しない場合もあるのがスタートアップなんです」

妻からの承諾を取りつけたマッキノンは、セールスフォース時代の同僚のフレデリック・ケレストを会社に迎え入れ、プロダクトの試作品を作り上げた。そして、業界の関係者数十名との面談を重ねて、そのプロトタイプに磨きをかけていった。
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文=上田裕資

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