あまりに突然の危機的な状況に身体は硬直した。刺されたらどうなるのか、そもそもなぜこの真冬にスズメバチがいるのか……。
駆除に最低2万2000円? とりあえずは食器棚に閉じ込め──
あれこれと考えをめぐらせているのも束の間、ハチは壁を歩きまわったり、時々飛んだり。そうしているうちにハチは、食器棚の中に入ってしまった。まずは刺されるリスクを無くそうと、食器棚を閉めることに成功。ひとまず安全を確保したうえでネットでハチ駆除法を調べると、いくつかの業者が出てきた。そのなかで24時間対応というところに電話をかけ、状況を説明した。しかし、提示されたのは最低2万2000円。“最低”なので、一体いくらまで跳ね上がるかはわからない。ハチの駆除は緊急性が高いので、業者が多少金額を上げても依頼は来るのだろう。とはいえ、一匹に数万円をかけるのは高額すぎるとためらい、翌朝改めて考えることにした。
そして再度検索をすると、グーグルマップに1件気になる表示が。
「蜂のおっちゃん」。評価は5件しかなかったが、すべて5.0。「おじさんの人柄も最高でした」というコメントもあった。一体どんな業者なのか不安もあったが試しに電話をかけるとこう言った。
「私はハチが大好きで駆除をやっています。捕獲したものは家に持って帰るので妻にいい顔はされませんが(笑)。でもね、いきなり刺してきたりはしないから大丈夫。ところで、うちの業者はグーグルマップで見つけましたか? いまはハチでお金を稼ごうと思っていないので、口コミを書いてもらえたら無料でやりますよ。ハチが増える時期に仕事が入ってくるために、口コミが大事なんで」
実は「社長」
なんと、一匹だけの駆除で居場所もわかっている、かつオフシーズンという理由でタダで引き受けてくれた。本来の料金は1万円からだ。そして「いまはハチでお金を稼ごうと思っていない」と言うように、実は本業は建築工事一式を手がける会社の代表取締役。だが、引退したらハチ駆除一本で生きていきたいという。そして数時間後、我が家へやってきたおっちゃん。多くの人が想像するであろう、防護服なるものは一切着用せず、食器棚の扉を開けて割り箸でハチを掴むとそのままペットボトルへ……。ものの3分で仕事を片づけた。種類はオオスズメバチの女王蜂。おっちゃんからしても、かなり大きいサイズで「刺されていたら死んでいたでしょうね」と言われたときには、やや背筋が凍った。
冒頭で書いた、冬になぜハチがいるのかについても聞いた。実はハチの中でも女王バチだけは一人で越冬し、本来は、木に穴を掘ってそこで冬眠するのだそう。それが今回は、どういうわけか洗濯物に辿り着いてしまった。冬は当面、部屋干しになりそうだ。ちなみに捕獲したハチには、カブトムシ用のゼリーを与え、冬眠用に木の根っこを置いておき、1カ月ほどで自然に帰すという。
生態系を守る独自の駆除
お気づきの方もいるかもしれないが、おっちゃんは他の業者とは異なる点がある。それは必ずしも「駆除=殺生」ではないということだ。ハチへの敬意を払い、こう語る。「攻撃性があるのはたしかです。ただ、あれだけ小さくとも、血も流れているし心もあります。そして家族をもって一つの巣を形成してるわけで、殺生は可哀想。私は、生態系を維持する独自の駆除を目指しています」
蜂のおっちゃん◎どんなハチの巣も即日駆除するハチ駆除スナイパー。業界歴30年以上、年間800件以上の現場経験をこなして磨かれた技術力や対応力を持ち、東京、神奈川、埼玉、千葉全域で対応。料金は1万円(税込み)から。
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