宇宙

2023.12.01

太陽系「最小」の水星は太陽系「最大の謎」の存在

NASA探査機メッセンジャーのデータを用いて作成した水星の着色画像。表面を構成する岩石の性質の違いを示している。画像中央右上は巨大なカロリス盆地(NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)

火星や金星が大ニュースを独占する一方、太陽系の最も内側にあるちっぽけな惑星、水星に向けられるわずかな関心は、後回しにされることが多い。太陽の周りを88日間で1周する、かなり楕円形の公転軌道上に位置する水星は奇妙で、解明されていない点が数多くある。

直径が地球の約3分の1で、一見したところ、クレーターのある表面は月に少し似ている。ゆっくりと自転するその表面はクレーターに覆われ、表面を横切ってクネクネと走る高さ約2kmの断崖が散在している。さらに、水星の表面を特徴づけているのは、太陽系最大級の衝突盆地である直径約1550kmのカロリス盆地だ。

この惑星の表面は、生命の居住にはほとんど適していない。表面温度が180~450度に達するため、水星が過去において、初期の太陽が暗かった時期でさえも、生命居住に適していたと考えている惑星科学者はほとんどいない。

何にもまして、水星が謎のままである理由は恐らく、探査が非常に難しいからだ。どんな方法であれ、そこに到達するのは決して簡単ではない。太陽の周りの短い軌道を非常に高速で公転している極めて小型の惑星に探査機が追いつくのは、ニュートンの物理法則により、並外れて難しくなっている。さらには、探査機は水星に到達するとすぐに、重力で捕捉されて安定軌道に投入されるように、十分に減速しなければならない。

米航空宇宙局(NASA)の探査機マリナー10号は1970年代中頃に、水星へのフライバイ(接近観測)を3回成功させた。だが、マリナー10号が撮影できたのは、水星全体の半分に満たなかった。

それから35年ぶりに水星を訪れ、2011年に観測を開始したNASAの探査機メッセンジャー(MESSENGER、MErcury Surface, Space ENvironment, GEochemistry, and Ranging)は、水星の周回軌道を4000周した。2015年に推進剤を使い切り、水星に衝突するまで、メッセンジャーは表面の組成と化学的性質の特徴を明らかにし、極域の堆積物は水の氷が大半を占めるという事実の検証に成功した。


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翻訳=河原稔

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