同社代表取締役CEOの吉田世博が使い続けてきたスマートフォンケースは、イタリア・ミラノ発のラグジュアリーレザーグッズブランド「BONAVENTURA(ボナベンチュラ)」だ。素材の質感を気に入ってのことだったが、ハッシュポートとボナベンチュラには、製品づくりに対して共通する理念があると思えたことも愛用の理由だった。
ブロックチェーン技術で資産を可視化する
Web3がインターネットに次ぐ新たな潮流になるーー。
大手コンサルティングファームで最先端のテクノロジーに触れる機会が多かった吉田世博は、2016年に上海でのプロジェクトに参加した際、Web3について熱く語る中国人の技術者たちから刺激を受けた。帰国した吉田は「この潮流に乗るしかない」と決意し、18年にハッシュポートを創業した。
「従来のインターネットは“情報”をデジタル化しそれを流通させるという革新を起こしましたが、Web3の世界では情報だけでなく、金銭的・非金銭的両方の“価値”をデジタル化していく。この“価値のインターネット”の普及の流れは不可避であり、人類の歴史にとって非常に大きな意味をもつのではないかと思ったのです」
ブロックチェーン技術を活用したWeb3ビジネスの大きな特徴は、自律分散性にあると吉田は語る。
「Web3の本質的な優位性の一つは、サービスが自律分散的に成長する可能性にあります。
Web2の時代では、Web1の時代で企業が担っていた“コンテンツをつくる”という仕事がユーザーに移りました。企業の仕事はユーザーがコンテンツを投稿したくなるような“プラットフォームを運営する”ことに変わり、企業の制作能力の制約を脱却してユーザーがコンテンツを生み出すユーザージェネレテッドコンテンツ(UGC)の時代になったのです。Youtubeやfacebook、Twitterがその代表例です。
Web3の時代では、Web2の時代に企業が担っていた“プラットフォームを運営する”という仕事がユーザーに移ります。企業の仕事はユーザーが運営に協力したくなる“インセンティブを設計する”ことに変わり、企業の運営能力の制約を超えてユーザーがサービスを成長させるディセントラライズド(分散型)サービスの時代になります。
自律分散的に運営される世界規模の送受金システムであるビットコインはじめ、事例がすでに生まれています」
Web3時代の自律分散サービスを成長させるコミュニティでは、多様な貢献がデジタル化された価値になる。吉田はそうした流れを見据えていた。
「価値が存在しないわけではないのに、流通できないものが世の中にはたくさんあります。価値は可視化することが難しい。例えば使われていない空き家や空き別荘は、価値は確実に存在しているけど、簡単に流通可能な状態ではないためにほとんどの人がアクセスできません。Web3を使って、価値をデジタル化し、そうした埋もれた価値を発掘したいのです」
デジタルの世界でも「質感」がワクワク感を生む
そのWeb3の世界が、一気に拡がろうとしている。ハッシュポートは大阪・関西万博の開催に合わせ、「EXPO 2025 デジタルウォレット」のアプリを提供するという。同アプリはキャッシュレス推進を目指す大阪・関西万博独自のウォレットサービスであり、独自の電子マネーやポイント、NFT(非代替性トークン)などをユーザーに提供する。そのなかで、ハッシュポートは、譲渡不可能なNFTであるSBT(ソウルバウンドトークン)やWeb3ウォレットを活用した事業連携サービスを通じて、各パビリオンや万博機運醸成に資する外部事業者との連携も担う。
「Web3ウォレットは、ひと言で言うとブロックチェーンサービスにアクセスするための窓口であり、アプリ一つでいろいろなWeb3のサービスと連携できる、ユーザーインターフェイスです。万博は2,800万人以上の方が来場する予定で、最低でも1,000万人以上の方にWeb3ウォレットを利用してもらえたらと考えております。万博はかつて、エレベーターや携帯電話といった当時は“未来の技術”と考えられていたものが世界にお披露目されたイベント。まだ見ぬ価値が暮らしのなかに入っていく一つのきっかけになってくれればと思っています」
EXPO 2025 デジタルウォレットの発表の際には、吉田がスマートフォンをもつ姿がテレビのニュースに映し出された。多くの人の前でスマートフォンの画面を披露する機会が少なくないことから、吉田はスマートフォンケースにも気を遣っている。チープなケースでは、自社サービスに対する信頼性が損なわれかねない。かといってこれみよがしな高級感もバランスが悪い。そんな吉田の要望に応えてくれるのが、ボナベンチュラのレザーケースだ。起業する際に前職の先輩にプレゼントされて以来愛用している吉田のお気に入りで、スマートフォンの機種変更などに合わせて頻繁に買い替えている。
「他のメーカーの革ケースを使ったこともありますが、スマホをはめ込む枠の部分がゴム製のため、ベタベタしがちで手触りがよくありませんでした。ボナベンチュラのケースは、端の部分まで革を使用してスマホを包み込んでいるので、ディテールまで上質な革の手触りを感じます。プレゼンなどの際には派手な印象は控えたいので、黒のケースがベスト。カジュアルすぎず、かといって主張しすぎることもない、ボナベンチュラがぴったりなのです」
13年に誕生したミラノ発のボナベンチュラは、「グローバルなラグジュアリーレザーブランドを創る」をビジョンに掲げ、世界のトップメゾンも採用する上質な革を使用し、スマートフォンケースから財布、バッグまでさまざまな商品ラインナップを揃えている。
アクセシブルラグジュアリーを標榜するボナベンチュラは、手の届くブランドでありながら製品づくりに一切の妥協がなく、素材の質感にこだわっている。吉田もサービスづくりにおいて、同じ考えをもっている。
「私たちはプロダクトに関する議論をする際に、『タンジブル』という言葉をよく使います。触れるとか、質感があるものという意味で、例えばWeb3ウォレットはただの概念ではなく、ユーザーの方に本物のお財布のように認識いただけるよう工夫することを心がけています。言葉だけでなく、手触り感のあることがすごく重要なのです。これがデジタルにおける素材感だと考えています。フィジカルの世界で手に取ったときのワクワク感と、デジタルの世界でのワクワク感には、通じるものがあるのではないかと思っています」
いつまでも使われ続ける「タイムレス」に共感
ボナベンチュラは一過性の流行を追わない。ジェンダーレスでシンプルかつミニマルなデザインを追求し、「タイムレス」に使い続けられることを志向する。それは、吉田もサービスを開発するうえで心がけていることだ。「私は電話しながらお辞儀をする癖があるのですが、子どもが最近私が使わなくなったボナベンチュラのスマートフォンケースを持ってそのマネをしています。親が使っている、暮らしのなかに溶け込んでいるサービスが次の世代の行動スタイルに引き継がれていくと、私は思っています。Web3ウォレットが万博をきっかけに普及し、子どもの世代が自分のつくったサービスを使う。新しいサービスが生活のなかに溶け込み、世代を超えて使われるようになるのが願いです」
シンプルなデザインゆえに、ボナベンチュラの製品はロゴも目立たないようにあしらわれている。時代とともにファッションブランドのあり方は変わるが、ボナベンチュラは不動のポジションを確立していると吉田は感じる。
「ブランドを購入することは、上質な体験をしたいという自分自身に向いている欲望である一方、上質を理解していると思われたいという、他人に向いている欲望でもあります。さまざまな活動がデジタル化されていくなかで、人と画面越しに会うことも多くなり、自分の所有するブランド品に気づいてもらう機会は減ります。デジタルシフトの時代におけるブランドは、上質な体験をしたいと思う欲望への向き合いがより重要となると考えております。自分が毎日手に取るもの、毎日触るものが快適、コンファタブルであることが、デジタル時代のラグジュアリーなのではないでしょうか。ボナベンチュラは、まさにそれを体現できるブランドではないかと思うのです」
吉田が描くWeb3の世界も、一人ひとりが自律的に、それぞれの場所で活躍することで成り立ち、誰もが快適に生活できることを目指す。
「大事なことは、一人ひとりの人間に、自らの価値を体現する社会的な役割が与えられることではないかと考えています。Web3の世界では、さまざまなコミュニティが社会のなかでそれぞれ異なる価値を発揮していくので、どんな人でも『この部分は得意じゃないけど、この部分は得意だ』という自らの価値を体現するコミュニティがきっと見つかるはず。それが自律分散型社会の理想形ではないかと思っています」
テクノロジーが進展すると、人々のブランドの捉え方もコミュニティのあり方も変わる。ハッシュポートもボナベンチュラも、誰もが輝けるよう、人々に新しい価値を提供し続けている。
BONAVENTURA
イタリア・ミラノ発のラグジュアリーレザーブランド。BONAVENTURAはイタリア語で「幸福」を意味し、ブランドコンセプトは「身近なモノを上質なものに変えたら、いつもより幸せを感じられる」。スマートフォンケースからはじまったが、現在ではバッグ、財布、カードケースなどさまざまなアイテムを揃える。オンラインを中心に展開してきたが、日本では表参道にフラッグシップストアがあるほか、心斎橋と福岡大名に店舗を構える。銀座鈴らん通りに11月10日よりBONAVENTURA銀座店がグランドオープンした。
https://jp.bonaventura.shop
お問合わせ先
ボナベンチュラ カスタマーサポート
TEL:050-3204-4803(電話対応:平日 9:30~18:00)
チャットサポート(有人対応:月曜〜日曜 9:30~22:00)
よしだ・せいはく◉ハッシュポート代表取締役CEO。慶應義塾大学法学部卒業。ボストンコンサルティンググループのデジタル事業開発部門であるBCG Digital Venturesで東京オフィス最年少のVenture Architect(投資・事業開発担当者)として、日本および中国でのプロジェクトに従事。 2018年にハッシュポートを創業し現職。日本暗号資産ビジネス協会理事、東京大学工学系研究科共同研究員なども勤めている。