「従業員に力を与える」という目標を掲げる同社は、HRプロセスのデジタル化を図る過程で、SaaSの提供にとどまらない幅広い機会を得たという。トンプソンは、自社が提供する給与の前払いサービスInstaPayを例にとり、「当社には世界の金融システムを再構築する力がある」と述べている。このサービスは、従業員が3豪ドル(約285円)の手数料を支払うことで、給与日前に月給の最大半分を受け取ることができるものだ。
「人事業務がアナログだった頃は、給与の支払い手続きに数週間を要していた。しかし、今はデジタル化されているため、給与が後払いである必要はなくなった」とトンプソンは言う。
エアビーアンドビーやメタ、ネットフリックスへの出資で知られる米ベンチャーキャピタル(VC)のテクノロジー・クロスオーバー・ベンチャーズ(TCV)は、トンプソンのビジョンを高く評価し、シリーズFラウンドを主導。このラウンドで、エンプロイメント社は2億6300万豪ドル(約250億円)を調達した。
10月19日に発表されたこのラウンドには、同社の既存株主であるInsight PartnersやAirTree Ventures、Seek Investments、OneVenturesが参加。設立9年目のエンプロイメント社の評価額は約20億豪ドル(約13億6000万米ドル=約1900億円)とされ.、同社は評価額10億米ドル超のスタートアップを指す「ユニコーン」の仲間入りを果たした。
TCVのゼネラルパートナーであるMuz Ashrafは「われわれは、彼らが対象とする市場がまだまだ未開拓だと捉えており、追い風が今後しばらく続くはずだと考えている」と話す。
エンプロイメント社は、中小企業を対象に、給与管理や新入社員のオンボーディング、パフォーマンスのモニタリングなどのHR関連業務を支援するオンラインツールを提供している。まだ黒字化を達成していないが、導入実績は世界中で30万社以上。従業員は、同社が「HRのスーパーアプリ」と呼ぶ「Swag」をダウンロードすることで、給与を確認したり、社内の求人情報を検索したりできる。