慣性誘導されたミサイルはロシア軍の防空網のほころびを破り、地上に近づいていった。そして、ベルジャンシク飛行場の駐機場に擲弾(てきだん)サイズの子弾を約1000発ずつばらまいた。この攻撃で、ロシア軍のヘリコプター少なくとも9機が破壊されたと伝えられる。
ロシアがウクライナで戦争を拡大してから1年9カ月目に入るなか「これまでで最も深刻な攻撃の1つ」だ──。通信アプリ「テレグラム」のロシアの人気チャンネル「Fighterbomber」は今回の攻撃をそう評している。バイデン政権が30年物のM39をより新しいバージョンのM39A1やM48で補完するようになれば、ロシア側にとってATACMSの脅威はさらに大きくなるだろう。
米陸軍には、ロケットモーターの寿命が切れているか切れそうになっているM39A1やM57の在庫が数百発ある。これらは手早く検品したのちに譲渡できる。というのも、寿命切れになっていないATACMSミサイルをおよそ1000発保有しているので、古いバージョンを手放しても陸軍による大規模な戦争の遂行能力が危うくなることはないからだ。
ATACMSのM39バージョンは一式のレーザージャイロによって誘導される。レーザージャイロはミサイルの位置を常に測定し、加速度や、発射位置に対する相対的な方向の算出を通じて進路を修正する。
こうした慣性航法はそれなりに精確だ。ウクライナ南部の前線とベルジャンシクの飛行場は80キロほど離れているが、これくらいの距離なら、ウクライナ軍が計60基かそこら保有する装軌式のM270多連装ロケットシステム(MLRS)や装輪式の高機動ロケット砲システム(HIMARS)から発射するATACMSで、目標を十分精確に狙えるに違いない。
ただ、M39A1バージョンはさらに精度が高い。慣性誘導にGPS(全地球測位システム)誘導が追加されたことで、ミサイルの平均誤差半径は約9メートルまで縮んでいる。これは、ほとんどのミサイルは目標から9メートル以内に着弾する公算が大きいことを意味する。