カルチャー

2023.10.13 16:30

トー横に溜まるのは問題か。歌舞伎町は「奈落」なのか

歌舞伎町の王城ビルの展示会「ナラッキー」


会期直前、テーマが「奈落」と聞いた。冒頭の書き出しのように、随分と卑下した言い方だなと思った。しかも、Chim↑Pomは歌舞伎町の住人ではない。そんな彼らが、歌舞伎町が舞台だからと言ってテーマを「奈落」とするのは我々に失礼じゃないか、と思った。
advertisement

「The End In The Hole 」というタイトルになりそうと聞いて、私は憤慨した。「いや、ますます、冒頭の文章のようになってしまう。うちらはそんな暗くない!地獄にいる可哀想な奴らだって君たちは思っているのか?」

彼らにそんな気がないこと、奈落の概念を拡張しようという試みだということは作品を鑑賞してから知った。しかしその時は作品を見ていないし、タイトルでそう思ってしまう歌舞伎町の住人が出ることは間違いない。私自身がそうであったように。

少しは私の気持ちを汲んでくれたのか、プレスリリース前日に「ナラッキー(Na-Lucky)」というタイトルになった。気持ち良い。そうだ、うちらはラッキーなのだ。

今回の展覧会のメインは作品「奈落」だ。王城ビルの30年間閉ざされていた吹き抜け空間を歌舞伎の床下にある奈落に見立てセリが上下する。空間には実際の歌舞伎公演の奈落の音が流されている。歌舞伎町に歌舞伎がやってきたのだ。しかも奈落。
advertisement

歌舞伎町という地名は歌舞伎を招致しようとして出来なかったが名前だけ残ってしまったという由来による。Chim↑Pomは歌舞伎町の住人ではないと書いたが、よーく歌舞伎町を読み解いてくれている。彼らも立派な奈落の住人なのだ。そして歌舞伎町を愛しているのだ。

歌舞伎町といえば、「人」だ。2階に拡がる東京QQQのメンバーそれぞれの背景を照らす作品群は心に直接訴えかける。特にKUMIさんの表情にはもっていかれる。私には想像力が、まだまだ足りない。人の苦労がわからないことがわかる。

Chim↑Pomが彼らを召喚するきっかけになったのが、過去2回行われた歌舞伎超祭だ。シネシティ広場で行われた歌舞伎町商店街振興組合主催の無料のパフォーマンスイベントで、不特定多数の通りすがりの人達の前で数時間パフォーマンスをする。偏らない、色んな方が観てくれた。
次ページ > 奈落から一筋の光

文=手塚マキ 編集=千野あき

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事