「また明日も観てくれるかな?(2016)」、「にんげんレストラン(2018)」の両展覧会の代名詞はビルバーガーだった。スクラップアンドビルド、ジェントリフィケーションなど変わりゆく街の在り方への問い。そんな現代社会に対しての批判性が強かった。
今回の「ナラッキー」にはそういう側面は感じない。そして、私自身、今まで触れてきたどんな現代アートよりも、今回の展覧会に自分を重ねることが出来た。
王城ビルの存在は昔から気になっていた。そしてコロナ禍にずっと閉じているのも知っていて、何かやらせてもらえないかなと企んでいた。そんな時にとあるパーティーでオーナーの方山堯さんに出会って、翌日にすぐ中を案内してもらった。
カラオケ居酒屋を営業していたのは約3年前まで。ビルはこの間眠っていた。ホコリとカビの匂いが充満していた。私は是非このまま貸してほしいとお願いした。しかし、王城ビルは開業以来、直営店のみで運営するというとても強いポリシーを持っていた。
私は、このビルの現状のままでも充分に価値を発揮できる、ベルリンのベルクハインのようになれる!と熱く語った。
イベントを数回誘致すると、想像通りの盛り上がりを見せた。
Chim↑Pomの卯城竜太さん達と、ここは世界中のカルチャー好きが集まる場所にできるポテンシャルがある。アートを中心とした文化センターにしよう!なんて、勝手に盛り上がっていたら、方山さんも段々乗ってきた。
しかし、私は焦っていた。ビルオーナーではない自分の力不足を感じるのは初めてではないが、今回は身動きのとれない悔しさの蓄積がたまらなくなってきた。
スケジュールが詰まっていることを承知の上でChim↑Pomに「大きな展覧会をやってくれ!」とお願いした。一歩を早く踏み出したかった。ここがそういう場所になることが歌舞伎町で生きていることに少しでも劣等感を抱いている人達の誇りのひとつになるんじゃないかと思った。そしてその一端に自分が関わらなければ、今まで歌舞伎町で生きてきた意味すらないと思った。
「歌舞伎町」と「奈落」
展覧会を行うことが決まったのは、7月頃。方山さん含め構想委員会を立ち上げて、展覧会の準備が始まった。方山さんも、歌舞伎町民としての反逆性を強く持っていたのだ。気持ちが揃った。こんな歌舞伎町のビルオーナーを見たことがない。
私は、Chim↑Pomとのプロジェクトで作品製作に口出しはしない。アーティストはアーティストであって、アーティストでない人はアーティストではないのだ。履き違えてはいけない。絵が上手い、上手な物が作れる器用さがある、とかそういうことではない。アーティストとして生きる覚悟を持って、アーティストとしてのメガネを掛けて社会を透視し続ける人生を選んだ人がアーティストだと私は思っている。
言葉で現代社会が抱える問題の複雑さを、言葉で丁寧に残すことができる学者も大事だ。しかし大衆に向けて、今を切り取って残していくこと、作品を通して、今生きる我々の日常の景色の色味を変えること、心に残すこと、それが出来るのが素晴らしいアーティストだと。
だから、今回もいつものように、開催までほとんど内容は聞いていなかったし、観てもいなかった。とても楽しみにしていた。