経済・社会

2023.10.07 11:30

ラフプレー、威嚇行為、日本選手ではなく平壌を見ていたサッカー北朝鮮代表

2023年9月14日、中国・浙江省杭州市の杭州中心市街地に、植物で構成された巨大なアジア大会エンブレムが設置された。(Photo by Costfoto/NurPhoto via Getty Images)

2023年9月14日、中国・浙江省杭州市の杭州中心市街地に、植物で構成された巨大なアジア大会エンブレムが設置された。(Photo by Costfoto/NurPhoto via Getty Images)

中国・杭州で開かれているアジア大会で、北朝鮮選手団のマナーの悪い行動が目立っている。相手の選手に大けがを負わせかねない危険なプレー、スポーツマンシップに欠ける態度、どれ一つとっても「野蛮」「無礼」といった言葉しか浮かばない。ただ、こうした野蛮な行為は、選手個人の無知や下劣な品性から生み出されているわけではない。彼らは、限られた相手に対してのみ、こうした態度を見せるからだ。本当にバーバリアンなら、誰彼構わず、同じ態度を取るはずだ。
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北朝鮮選手の醜悪な態度のターゲットは、日本と韓国だった。1日の男子サッカー準々決勝の対日本戦ではラフプレーを繰り返し、イエローカードは6枚を数えた。倒れた日本選手を助け起こそうともしない。あげくに、給水をしてくれた日本代表関係者を威嚇すらした。9月25日に行われた射撃競技の男子団体種目表彰式では、優勝した韓国代表と3位のインドネシア代表が国旗掲揚を守るなか、2位の北朝鮮選手団は顔を背け、韓国代表と一緒の写真撮影を拒否した。朝鮮中央通信も、女子サッカー準々決勝で対戦した韓国代表を「傀儡チーム」とあざけった。

かつて金日成主席のフランス語通訳を務めた高英煥・元韓国国家安保戦略研究院副院長によれば、北朝鮮の人々が国際試合や外交協議などで国外に出る場合、必ず行動の対処方針が決められる。例えば、北朝鮮外交官が時々、海外で記者団の取材に応じることがある。これは「記者が熱心だから」とか「外交官の気分が良いから」という理由では決してない。事前に定められた対処方針に従っているだけだ。高氏によれば、アジア大会程度の注目度があれば、最高指導者である金正恩総書記の決裁を仰ぐという。場合によっては、正恩氏自らが指示することもある。

特に、北朝鮮が常々対立している日本、米国、韓国との接触は非常にデリケートな問題だ。最近、外地勤務を終えて帰国した韓国大使の知人は「文在寅政権の頃と尹錫悦政権当時で、同じ任地に駐在していた北朝鮮大使の態度が180度変わった」と語る。南北対話を掲げた文政権時代、韓国大使がパーティーで北朝鮮大使と同席すると、北朝鮮大使は気軽に挨拶に応じたし、簡単な世間話にも応じていた。ところが、昨年5月に保守系の尹錫悦政権が誕生すると、北朝鮮大使は視線を全く合わせなくなり、韓国大使を避けるようになったという。
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文=牧野愛博

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