アジェンダに掲げられたのは「SEA CHANGE」。大きな変化、急激な変化の意だ。世界はまさに変化の中にある。Deleveraging(リバレッジ解消)、Decelerating(減速)、Deglobalizing(反グローバリゼーション)といった逆風のなか、リーダーはどのように舵取りしていくべきか。荒波を乗り切るためのヒントとなりうる16のトークセッションが展開された。
登壇者の多くは、アジアを拠点とする財閥や大企業の経営者、投資家で、それゆえ、「シンガポール長者番付の1位」「マレーシア一の富豪の孫」など、フォーブスのビリオネア・ランキングに名を連ねる面々も多かった。ほか、アフリカや中東の銀行トップなども登壇。インドネシアのスリ・ムルヤニ財務大臣、シンガポールのヘン・スイキャット副首相兼財務大臣を招いたセッションも行われた。
小さな園芸店から、タイ最大の複合企業に
11日夜に開催されたガラ・ディナーでは、タイの大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループのタニン・チャラワノン(謝国民)上級会長に「マルコム・S・フォーブス生涯功労賞」が授与された。同賞は、事業展開で成功し、模範を示したビジネスリーダーを称えて贈られるものだ。CPグループは、タニンの父で中国出身の謝易初とその弟の謝少飛が1921年にタイで開業した中国産種子販売店を前身とする企業。現在は、従業員数約40万人、売上約820億ドル(約12兆円)というタイ最大規模のコングロマリットとなっている。
タニンは4人兄弟の末っ子で、48年間にわたりCPグループの会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、同社を飼料生産と畜産の世界大手に成長させた。2017年には会長とCEOの座を息子2人に引き継いでいる。
タニンを含むチャラワノン兄弟は計340億ドル(約5兆円)の資産を保有しているとみられ、フォーブスがまとめた2023年のタイ長者番付で1位となった。タニン個人の保有資産は140億ドル(約2兆700億円)と推定される。
ガラ・ディナーでフォーブス・メディアのスティーブ・フォーブス会長兼編集長と対談したタニンは、小さな園芸店を国際複合企業に育て上げた自身の功績を振り返り、「当時の事業はとてもスケーラブルだった。人々と家畜が必要とする食品と飼料を生産していたからだ」と説明。だが、「私が事業を引き継いだ時、現在の規模にまで成長するとは想像もできなかった」と語った。
1997年のアジア通貨危機ではCPグループも大きな影響を受け、不動産分野などからの撤退を強いられたが、タニンは「農業はあきらめるべきではないという正しい決断」をし、事業の取捨選択によって、会社を存続させることができたという。
同社は現在、通信やエンターテインメントなどの事業も展開しているが、タニンは「どんな経済状況にあっても、食品は人々にとって最も重要なものだ」という考えから、食品・飼料分野を同社の長期的なコア事業と位置付ける方針を強調した。