ポタポフは、ロシア国防省系のテレビ局ズベズダに「これが目下の課題だ。もっと正確に言えば、軍がわが社に課したものだ」「現在、産業貿易省と積極的に交流し、協力し、これらの課題について検討している。なぜなら、それ相応の新たな能力が必要になるからだ」と語った。
鵜呑みにはできない。シベリア・オムスクにあるウラルバゴンザボドの工場では、1991年以降、T-80の車体を新規製造していない。32年前の金型はまだ工場にあるかもしれないが、新たにT-80を組み立てるのに必要となる大量の部品を供給する業者はおそらくいないだろう。
クレムリンが表向き、125ミリ主砲を備えた重量46トン・3人乗りのT-80戦車の生産再開をウラルバゴンザボドに命じたであろう理由は明らかだ。開戦から19カ月目に突入したウクライナとの戦争で、ロシアはすでに約2000両の戦車を失った。これは、侵攻が始まった2022年初頭にロシア軍が前線に配備していた戦車のほぼ半数に相当する。
ロシア軍は、保管されていた古い戦車を修復することで損失分を補填した。その中には初期型のT-80数百両も含まれていた可能性が高い。だが、保管基地にある戦車は無限に供給されるわけではない。
ウラルバゴンザボドが実際にT-80を新規生産するとして、どのモデルを生産するのかは不明だ。同社は、1991年以前の古い車体に最新の光学機器と火器管制装置を取り付けたガスタービン駆動の「新型」T-80BVMや、光学系の精度でやや劣るT-80BV Obr.2023を製造している。
だが、T-80BVMにしろT-80BV Obr.2023にしろ、一から新規製造するとしたら、ウラルバゴンザボドは戦車部品を30年間製造していなかった下請け業者を数百社かき集めなければならないだろう。ポタポフが「新しい能力」の必要性を強調したのには、理由がある。
それは難しい仕事だ。米国の軍用車両メーカーであるゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズも、米軍主力戦車M1エイブラムスの車体を製造したのは1996年が最後で、以降は古い車体をベースに「新しい」車両を組み立てているだけだ。米議会予算局(CBO)は、1993年に国内の戦車産業を調査した際、ゼロからの生産再開には4年8カ月の準備期間と11億ドル(約1600億円)の費用を要すると算定した。
ロシアと米国では戦車産業を取り巻く事情は異なるが、CBOの調査は少なくとも双方にまたがる重要な真実を浮き彫りにしている。数十年を経て新品の戦車の生産を再開するには、多大な費用と時間がかかる。
したがって、ウラルバゴンザボドがT-80の新規製造を再開するとのポタポフの発言も、今すぐにという意味ではなかったことは、ほぼ確実だ。
(forbes.com 原文)