同社は創業して約10年間、融資も出資も受けず、外部資本を一切受けないという独特の経営スタイルを貫いてきた。本取材では、何故Chatworkが資金調達をするという戦略をとったのか、また現役上場社長として最多投資件数のエンジェル投資を行う、山本正喜氏のその想いを取材した。
1. Chatworkの知られざる誕生秘話
始まりは大阪。遡ること23年前、情報技術を専門とする大学に通っていた正喜氏はChatworkの前身である「EC studio」を兄と創業。元々は、web解析ツールの開発やITコンサル事業を展開していたが、業界競争が激しくなったために断念せざるをえなかった。その後、新規事業を立ち上げるにあたって『中小企業のIT支援』に希望を見出す。”自分の会社になければ業務が回らず”、かつ“世の中にまだ広まっていない”ITツールを模索した結果生まれたのが、世界初のビジネス向けチャットツール『Chatwork』だ。
正喜氏には「これは絶対にうまくいく」という確信があった。しかし、LINEやSlackもその時代には存在しなく、当時代表であった兄に開発の打診をすると『好きなことをやるんだからお前1人でやれ』と言われ、開発チームをもらえず正喜氏がたった1人で開発したのが、『Chatwork』だ。
2. 後初のSlack登場により、チャット戦国時代に
従来のメール連絡からチャット連絡が主流になったのは、2011年6月の『LINE』リリース後であった。それから2年もすればチャット連絡が浸透していき、今まで「チャットって何?」と思っていた人でもチャットの便利さに気づき始めた、そんな時代。セキュリティの丈夫なビジネス版チャットの需要が増し、この大波を味方につけて、見事に利用者数を増やしていった。
しかし、ブームの中で当然競合も増え、Chatworkは追われる存在となっていく。新たな競合が登場するスピードは、驚くことに海外を含め約週1回ペースであったという。有名なチャットツールでいえば『Slack』や『Teams』などがあるが、その中でChatworkは、中小企業に対して強みを持つ、独自のポジションを築いた。そのワケを、正喜氏は教えてくれた。
・国産・シンプルで日本人にとって分かりやすい作り
・ITに詳しくない人でも使いこなせる仕様
・自分が申請を送るだけでチャットに入れるオープンな仕組み
Slackが社内向けのチャットツールであるのに対して、Chatworkは社外とのコミュニケーションを意識して設計されている。
競合の登場によって結果的に自社のポジションや強みがわかるようになり、その後の戦略も、“中小企業のユーザー獲得”に特化して、力を注げるようになった。まさに、ピンチはチャンスとはこのことである。