──元々ホラーがお好きなのですか?
神津:好きです。“怖い話”を書いてみたいと漠然とした思いもありました。
今のホラー作品って、リアルさや派手さを追求したものが多いと思います。でも、私が好きなのはスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(1980年)、野村芳太郎監督の『八つ墓村』(1977年)のような、じわじわと芯のある “怖さ”が来るような作品なので。
この映画では、幸せな日常をじわじわと襲う“怖さ”を上手く表現いただきました。
(c)2023『スイート・マイホーム』製作委員会 (c)神津凛子/講談社
齊藤:舞台が“新築”というのも、ホラー作品では新しいですよね。Jホラーだと特に、日本古来の家や廃墟などが舞台になりやすい。でも、本作を通して“真新しさ”の怖さってたしかにあるなと思いました。
ちなみに、劇中で出てくる賢二の家は、取り壊される予定の住宅展示場で撮影させていただきました。本当に、まだ誰も生活したことのない空間です。きれいだからこそ空虚感があり、そこに“怖さ”が生まれるんですよね。
「ポジティブ」の裏に隠れた怖さ
──齊藤監督は、原作が「実写にすることでたどり着ける表現」を描ききってしまっていると話していましたが、映画化するにあたって意識した点はありますか。齊藤:原作があまりにも強烈なのですが……これをマイルドにして、映像倫理に合わせて削って映像化することは、原作リスペクトにはならないと考え、それはやめました。
本作で描かれる“怖さ”は、きれいだけど無機質な空間だったり、笑顔でも目の奥が笑っていない人だったり、表向きはポジティブに見えるものの裏に隠れた怖さです。1枚めくったら嘘かもしれない。そういう恐怖を描いた作品は、今までなかったのではないかと思います。
ですので、映画でも「日常」をありありと感じさせることを意識し、怖さとのグラデーションをしっかり表現しました。
ジャケット 6万4900円 シャツ 3万6300円 サロペット 5万8300円 すべてスズキ タカユキ その他スタイリスト私物。【お問合せ先】スズキ タカユキ(03-6821-6701)
──神津先生は映画作品を見てどう感じましたか?
神津:完成した映像を、「私、この話知ってる!」くらいのどこか他人ごとのような感覚で、没入して観ました。齊藤監督や制作の方々には、この小説の世界がこういうふうに見えているんだ、と。
映画って、「このシーンを見るためにこの映画を見たんじゃないか」と思ってしまうような、強烈に印象に残るシーンがあるといいと思っているのですが、齊藤監督であればそういったシーンができあがるだろうなと期待していました。実際、ラストシーンを観たときに、まさにこれだと思いましたね。