自民党ベテラン議員は麻生氏の発言について「力で現状変更しようとする国には、それが割に合わない事を力で示す事が決定的に重要だ。力には、能力と国民の戦う覚悟が求められる。ウクライナの経験から、我々は国民の戦う覚悟がいかに重要かを教訓として学んだ。その覚悟を台湾の人々にだけではなく、日本の国民にも求められるといことを、伝えようとしたのだろう」と語る。また、日本にとって終戦の日が来る8月は、「軍事力即ち悪」とみなす反戦平和論が盛り上がるため、こうした状況を見越したうえでの発言だとの考えも示した。
この議員の解釈も理解できる。ベトナム戦争当時のロバート・マクナマラ国防長官は回顧録でこう語った。「一国の最も深いところに潜んでいる力は、軍事力ではなく、国民の団結力にあります。アメリカはこれを維持するのに失敗したのです」。マクナマラは「失敗」の理由の一つとして、国民に十分説明しなかった点を挙げた。ただ、麻生氏の発言を巡っては、賛否両論が飛び交い、むしろ国民の団結が揺らいでいるように見える。いくら、日本が最新兵器をそろえ、戦争に勝利できる見通しを持ったとしても、国民が「戦いたくない」と言えば、そこで戦争は終わる。なぜ、こういう状況に陥っているのか。
陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は、「日本が国として持つ軍事力をどのように使うかという点で、国民の合意を求める努力を政治家が怠っているからだと思います」と語る。
安倍晋三政権は2014年7月、集団的自衛権行使を容認する閣議決定を行った。当時、政府・自民党が展開した論理は「日本を守るために展開した米軍が攻撃されたとき、何もしないで傍観していて良いのか」というものだった。ところが、麻生氏の発言は「台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないために戦う覚悟を持つべきだ」と主張したものだ。日本だけではなく、価値観を共有する国・地域を守るために日本の軍事力を行使すると宣言しているのに等しい。