北朝鮮は2019年1月、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために国境を封鎖した。以来、外交団の訪朝は、今年7月の中ロ両国代表団の派遣まで途絶えていた。平壌に大使館を置く国も元々20数カ国だったが、スウェーデンや英国など欧州諸国の大使館が現地職員を残して外交団を次々本国に撤収させた。確かに、こんな状況では、オンラインがあるとはいえ、ろくな外交経験も積めなかっただろう。
北朝鮮は9月23日から中国・杭州で開かれるアジア大会への選手団登録も始めた模様だ。7月に訪朝したロシアのショイグ国防相らは金正恩総書記と会談した。最高指導者との面会前に、厳格なPCR検査があったかどうかは不明だが、北朝鮮が国境封鎖した最大の目的である「最高指導者の生命の安全」に一定のメドがついたとみてよさそうだ。
では、崔善姫外相がニューヨークに乗り込んだ場合、どんな外交戦を展開するつもりなのだろうか。米国の専門家たちは口をそろえて、「米朝協議が開かれる可能性は極めて低い」と語る。米国のバイデン大統領の頭は、来年秋の大統領選をにらんだ国内政治や中国、ロシア・ウクライナ情勢の問題で一杯だ。北朝鮮も最近、金与正・朝鮮労働党副部長を筆頭に、口を極めて米国を罵りつづけている。脱北した元労働党幹部は「米国が北朝鮮を核保有国として認定し、制裁を緩和するという見通しが立たない限り、北朝鮮は米朝協議には出てこない」と語る。
今、北朝鮮が考えている外交とは、冷戦外交の復活だという。北朝鮮は冷戦時代、共産主義陣営の一員でありながら、独自の「自主独立外交」で関係国をかき回した。米ミドルベリー大学院モントレー校ジェームス・マーティン不拡散研究センターのジェフリー・ルイス博士は、7月27日の軍事パレードを見ながら、北朝鮮が1960年代に展開した中ソ外交を思い出したという。
パレードで、正恩氏の両脇にはショイグ国防相と中国の李鴻忠・中国共産党政治局員が並び立った。ただ、北朝鮮側はショイグ氏をまず案内し、次に李氏を案内した。正恩氏が話しかける相手も映像を見る限り、ショイグ氏の方が多かった。ルイス博士は「1960年代、金日成はモスクワに出かけ、小額の支援を得ました。その支援を見せ球にして、次は北京に行って更に大きな支援を引き出しました。ショイグ氏を厚遇したのは、中国に対する牽制という意味もあるはずです」と語る。