コロナ禍で医療現場は人の出入りを制限された。医師に薬の情報提供を行うMRも例外ではなく、リアルからデジタルへのシフトは加速。製薬会社のデジタルマーケティング支援が売り上げの85%を占めるメドピアには強烈な追い風となった。
今後もデジタル化は進むことが予想されるが、なぜ逆行するようにリアルの事業を買収したのか。疑問をぶつけると、同社を率いる石見陽は真意を明かした。
「多くの業界でラストワンマイルが課題ですが、医療も同じ。医療行為を“手当て”というように、手で触ることが医療現場では重要です。一方、医療の世界には非効率さも残っています。医師と製薬会社のコミュニケーションはそのひとつです。これからはリアルの強みとデジタルの効率性の融合が必要。デジタル武装されたMRという世界観をつくりたいのです」
今回のM&Aは規模の面でも挑戦的だった。当時のメドピアグループとEPフォースの社員数は各400人程度。同規模の会社がひとつになれば、組織のカルチャーが変わりかねない。しかし、石見は「心配していない」と言い切る。
「ヘルスケア領域のいいところは、人の命を救うというゴールを共有していること。そこからブレると存在価値はない。目的は同じなので、カルチャーの融合はしやすい」
人命を救わねば価値がない──。使命感が揺るがないのは、石見が医師であることと無関係ではない。石見の祖父は開業医。戦後の混乱期、患者から治療代のかわりに大根を受け取る『赤ひげ』を地で行く医者だった。叔父や兄も医師になり、自然に自分も医師を志した。
大学卒業後は東京女子医科大学の循環器内科へ。朝6時に出勤してオーベン(指導医)の回診に備え、患者が寝た後も午後11時過ぎまでカルテを書く毎日。ハードだったが、退院する患者から「先生ありがとう」と言われることが励みになった。そんなときに発覚したのが、東京女子医大の一部の医局で起きたカルテ改竄及び隠蔽事件だ。患者は救急車に乗っても、「東京女子医大だけはやめてくれ」と拒否。患者が消えた。石見は臨床をやりながら大学院で学んでいたが、博士号取得が困難になり、この機に東海大学の研究室に移った。