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2023.07.28 16:30

赤ひげをアップデート。医療で1億人を救う事業計画

研究医になり時間ができたことで異業種交流会にも参加。触発され、まず副業として人材紹介会社への医者の一括登録サービスを始めた。月200万円程度の売り上げになり、博士号も取得。石見は臨床医に戻るか、それとも起業家として生きるかの選択を迫られる。頭に浮かんだのは、20万人という数字だ。

「臨床医として一生で何人の方を救えるのか計算しました。20万人です。これはすごいことです。ただ、当時知り合った医系技官がピロリ菌除去の保険適用を実現させたことに刺激を受けました。ピロリ菌除去が普及すれば、将来、がんは減ります。より多くの患者を救うには、仕組みをダイナミックに変えることも必要。起業家として1億人の命を救うほうに力を注ごうと決めました」

1億人を救うのに、今のままでは力不足だ。石見はまず、07年に医師向けコミュニティ(09年MedPeerに改称)を立ち上げた。重視したのは距離感だ。既存の人材紹介会社への送客事業と一緒にすると、「コミュニティに登録すると売られる」と誤解されるため、完全に切り分けた。また、事業に軸足を移してからも週1日は医師として臨床を続けた。ユーザーの気持ちがわからない起業家にはなりたくなかったからだ。

そのかいあって医師の登録数は現在16万人に。すでに製薬会社のデジタルマーケティング支援やキャリア事業等の広がりを見せているが、今後はプライマリーケアと予防の領域を中心に拡充させ、ヘルスケア・プラットフォームを目指す。

今回の買収で医師と製薬会社のコミュニケーションを進化させる道筋はついた。その先に見据えるのは、医師と患者のコミュニケーションだ。「テクノロジーを活用して、“赤ひげ”をアップデートさせたい。患者が病院に来たときだけ医者と点でつながるのではなく、普段から家庭医として線でつながり、さらに家族全体と面でつながってく。そんな世界を実現できたら国民は安心して暮らせるようになるはずです」


いわみ・よう◎1999年に信州大学医学部卒業後、東京女子医科大学循環器内科学に入局。2004年にメディカル・オブリージュ(現メドピア)を設立し社長就任。07年に医師専用コミュニティサイトNextDoctors(現MedPeer)を開設。現役医師。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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