訓練生がARグラスを装着すると、人形の頭部に認知症患者のアバターの顔が見えるようになる。すると訓練生は、人形だけの場合と違い、相手とアイコンタクトを取るようになるという。また訓練生の内面にも変化が起こり、相手に共感を覚えるようになることが、ARシステムに組み込まれたセンサーの計測値から確認された。
これは、フランスで提唱され世界の介護分野で注目を集めている「ユマニチュード」の修得に大いに貢献する。ユマニチュードは、人間性を重んじた「優しい介護」のための技法で、相手を正面から見る、優しく話す、優しく触れる、立たせるという4つの柱で構成されている。理想的な介護手法だとわかっていても、介護者の感覚に大きく依存する技能であるため、教えるのも修得するのも難しい。岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の中澤篤志教授の研究グループは、この優しい介護を計算と脳科学で定量化して訓練に役立てようと研究を重ねてきた。
現在、中澤教授の中心に、『「優しい介護」インタラクションの計算的・脳科学的解明』と題した研究が科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(JST CREST)でも進められている。これまでに、ユマニチュードを実践する熟練介護者の動作を解析し数値化してきたが、このAR技術を使うことでそのデータを効率的に活用できるようになったわけだ。このシステムはさまざまな大学で利用され始めているという。ARを使った訓練は、若い学生に好評とのことで、普及が期待される。
下の動画は中澤教授が京都大学に在籍中のもの。
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