建築デザイナーとファッションモデルという二足のわらじを履くサリー楓は、大学院在学時にセクシュアルマイノリティであることを社会に打ち明けた経験をもとに、社会規範に対する新しい考えを積極的に提案している。そんなサリー楓は、自分の目の前にある違和感や課題にどのように向き合ってきたのか。自らを鼓舞する原動力とは。
自己防衛のための行動が夢へとつながった
ファッションモデルであり、日建設計のNAD(NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab)で建築デザイナー/コンサルタントとして活動するサリー楓。子どものころから目標にしていた「建築家」の夢を叶えると同時に、セクシャルマイノリティとしてジェンダーやセクシャリティについて社会の理解を深めてもらうための講演を行うなど、さまざまな発信と表現に取り組んでいる。そんなサリー楓が建築家を夢見たのは、小学生の頃。「小学生の頃、男の子は外でサッカー、女の子はシール交換……という感じで、男女の休み時間の過ごし方が分けられていて。そのどちらに対しても居場所を感じられなかった私は、教室で建築物の絵を描きながら時間をやり過ごすようになりました」
絵が好きで書いているというよりは、「自己防衛として描いていた」とサリー楓は振り返る。消極的な理由から描いていた絵だったが、絵画コンクールで入賞を果たすなど、褒められる場面が増えていった。
「そんなとき、親から『建物を描くのが好きなら建築家になれば』とポロッと言われたのがその職業を意識したきっかけでした。それ以来、自己防衛として描いていたものが、だんだんと自己実現の方向に変わってきたのだと思います。人から必要とされ、喜んでもらえることが、自分にとっての大きな幸せなんだと自覚すると同時に、モチベーションもあがっていったんです」
挑戦だと構えずに、ただ目の前にある山を登っていく
実際に建築デザイナーとして働くようになってからも、建物を使用する人が喜んでくれる瞬間が最大の活力になっているという。そんなサリー楓が最近挑戦しているのは、新しいトイレの提案だ。
「基本的な役割(排泄と手洗い)だけにとらわれるのではなく、今までとは違う使い方、見せ方を考えて設計しました。つまり、トイレのアイデンティティを見直してみました。結果としてマイノリティ、マジョリティにかかわらず幅広い層の方の共感を得ることができたと思います」
建築デザイナー、ファッションモデル、セクシュアルマイノリティとして生きるサリー楓は、その複数の視点から得た知見で、今よりもよい方向に社会を変えていくために挑み続けているように見える。
「でも『挑戦を続ける』ということは、あまり意識したことがないんです。私が今まで取り組んできたことは、自分のなかでそれをする必然性があったり、気づいたら発信していたりすることばかりでした」
「人がいることで完成する」ファッションと建築の可能性
この日はパラッツォ フェンディ 表参道のブティックで撮影を行ったサリー楓。しなやかで涼しげなパンツルックを颯爽と着こなしながら、時おり建築デザイナーならではの鋭い視点で店内を眺めていた。
「ショップをゆっくり歩いていると、服だけじゃなく雑貨がたくさん目に入って。FENDIの世界観をファッションだけでなく生活のすべてに取り入れることができるような、ライフスタイルに着目する独自の価値観を感じました。実はハイブランドの提案する厳かな衣装を目の前にすると、自分に着こなせるのだろうかと不安になってしまうこともあるんです。でも実際に身につけてみると、これは着た人を引き立てる服だと強く思いました。
そして、脱いだ後の衣装を見て、ダイヤのはまっていない指輪のようにも感じたんです。つまり、人が着ることによって輝くように丁寧にデザインされている。風を含んで袖のあたりがふわっとゆらめく姿にうっとりしたんですが、それはただ袖をゆるくデザインしているのではなくて、人が身につけて動くときのことを考えてつくられていますよね」
服に着られるのではなく、自分が服や雑貨を生活のなかに取り込む。その考え方は、建築デザインにも通じる部分があるという。
「建築も、あまりに厳かな空間をつくるとユーザーが萎縮してうまく使いこなせなかったりするのです。だからほどよく崩したり居心地をよくしながら、ユーザーが建築のなかで使い方を考えたり、主体的にかかわっていけるように設計にしないといけない。そうすることで、ユーザーが建築と対等な関係でうまくかかわり合うことができるのだと思います。FENDIの服を着て、そのことを再認識しました」
真新しいファッションを自らの内に取り入れたサリー楓は、さっぱりとした表情で前を見据えている。
「トイレの提案に挑戦したことで、建物が生む『分断』について考えるようになりました。外国人観光客でタトゥーが入っている人は温泉旅行へ行けるのかとか、刑務所のように男性/女性で分けられる空間の中にはどういう問題があるのかとか。
自分がふだん困った体験をしたり嫌な思いをしたとき、その感情を無駄にせずに、変えていけるところは変えていき、議論の種として発信していくのが目標です。そこにかかわるすべての人を社会問題の当事者として包括しながら、それぞれの感情を因数分解して、社会の不平等感をなくすサスティナブルな建築デザインに取り組みたいと思っています」
サリー楓◎1993年、京都生まれ。幼少期より建築に興味を持ち、慶應義塾大学大学院で建築を学ぶ。日建設計の都市・空間デザインを提案するNADにてコンサルタントとして活躍。『Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022』受賞。
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