こうした認知プロセスの1つに「自伝的記憶(自分の個人的な体験についての記憶)の想起」がある。この形態の記憶は、人が人として機能するためには不可欠なもので、自己概念、感情の抑制、問題解決といった機能を確立させる役割を持つ。
英国の2人の研究者は、2023年6月28日付で「PLOS One」に掲載された論文において、うつ病患者が自身の経験に関する特定の記憶を思い出す上で「慈愛の瞑想(loving-kindness meditation)」が役立つ可能性があると報告している。
英セント・アンドリューズ大学のアマンダ・レイサンとバーバラ・ドリッチェルは、論文でこう述べている。「慈愛の瞑想は、無条件の慈しみという感情を、自身および他の人に向けることを実践するものだ。自身を深く慈しむよう促すことで、自己不一致(理想と現実の自己のずれ)が、自伝的記憶の想起に与える影響を抑えることができる。これは、これらの判断に関連づけられたネガティブな影響、さらに、それが自伝的記憶の想起に与える影響を緩和することによって可能になる」
寛解状態の大うつ病(治療後も疲労感や不安感、睡眠障害の症状を訴えるもの)の患者は、特定の文脈に大きく依存する具体的な出来事を思い出すのに困難を覚える。
「特定の(具体的な)記憶とはすなわち、ある1日の、特定の時および場所で起きた出来事(例えば「私の大学卒業」など)を指す。これに対して「具体的ではない曖昧な記憶」とは、ある程度長い期間(例えば「私のギリシャでの休暇旅行」)や、カテゴリー化された記憶(例えば「私の毎週金曜日の公園での散歩」)から構成される」と、2人は説明する。
「現在うつ病を患っている、あるいは寛解状態にある者はいずれも、個人的な出来事に関する具体的な記憶の想起に困難を覚える。こうした記憶を想起するよう促された場合でも、具体的ではない曖昧な記憶が生成されるケースが多い。こうした記憶は、より抽象的で、繰り返し発生した出来事の一般的な特徴を描写するものだ」
具体的ではない曖昧な記憶は、自分の否定的な側面について繰り返し考える「反芻思考」と結びついており、うつ病エピソード(抑うつ気分などの症状)につながりかねないため、生産的なものとは言えない。