そして広島・長崎への原爆投下から約78年を経た現在では、ロシアがウクライナ侵攻するなかで、核兵器の使用をちらつかせている。また、北朝鮮が核兵器と大陸間弾道ミサイルの開発を急ぎ、中国がNPT加盟国のなかで唯一核弾頭保有量を増やしているなど、核兵器をめぐる状況は1950年代とは一変している。
今回の広島G7サミットでは、G7首脳が平和記念公園でそろって献花して、原爆資料館で40分の時間を使って展示を見たことは、核廃絶運動の意味も大きく変化したことを反映している。ゼレンスキー大統領が原爆資料館を訪問したあと「破壊された広島の写真が(ロシアに破壊された)バフムトに似ていた」と語ったことが、広島の現代的な意義を端的に表している。
いまやロシア・中国・北朝鮮からの核の脅威への対処がG7の課題である。5月19日(サミット1日目)に合意された「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」では、「我々は、核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する」としている。つまり、抑止力を維持しつつ核兵器のない世界を目指す、ということであり、現在の世界情勢のなかで、G7が一方的に核軍縮を進めることはない。
このように、幸か不幸か、G7以外からの核の脅威が、G7の核の脅威を上回る世界情勢のなかで、日本の核廃絶への願いへ応えつつ、G7が一致してビジョンを発出できたことの意義は大きい。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著 に『Managing CurrencyRisk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。