そしてその大きな流れがいま、日本にたどり着いた。今回はアクセンチュア ソングからマネジング・ディレクターの久田祐通と豊島 周、アドビからは、パートナー営業本部 執行役員本部長の長岡昌吾、デジタルストラテジー&ソリューションコンサルタント本部 執行役員本部長の中田早都次に、日本における2社のパートナーシップがもつ大きな可能性について、語ってもらった。
生成AI(ジェネレーティブAI)などAIテクノロジーの進化により、カスタマー・エクスペリエンス・マネジメントのあり方が急速な変化を遂げている。顧客に対してより最適なパーソナライゼーションが可能となり、コンテンツ需要は2年間で5倍に急増すると着目されている。そしてその対応こそが顧客体験の質を決める鍵となるようだ。
こうした状況に対してグローバルではすでに、総合コンサルティングファーム・アクセンチュアと、顧客体験の刷新を支援する「Adobe Experience Cloud」を展開するアドビがパートナーシップを組み、企業のコスト削減、効率化、成長促進支援のための新たな「コンテンツ サプライチェーン サービス」を展開し、成果をあげている。
果たしてその新しい波は、日本国内にも浸透するのか。コンテンツ サプライチェーン サービスは国内企業にどのような影響を与えるのか。
アクセンチュアで顧客起点の変革アジェンダを包括的に支援するアクセンチュア ソングから、マネジング・ディレクターの久田祐通(以下、久田)と豊島 周(以下、豊島)。アドビから執行役員本部長の長岡昌吾(以下、長岡)と、中田早都次(以下、中田)を招き、日本でのパートナーシップがもつ重要性について聞いた。
デジタルテクノロジーの進化がマーケティングにもたらす影響
──まず、デジタルテクノロジー領域で起きている変化はどのようにマーケティングに影響しているのでしょうか?グローバルと日本の状況の違いと併せて、解説ください。
久田:顧客の生活・行動様式の多様化を受けて、マーケティングのトレンドは急速に変化する兆しを見せています。メディアの多様化とアドテクノロジーの進化により得られるデータも増加し、顧客体験をどのようにマネジメントしていくかという議論が続いてきました。アメリカなどではより多種多様なコンテンツで顧客に応えるパーソナライゼーションが進みましたが、日本国内で言えば、まだマスマーケティングが主流でこの転換になかなか対応できていないのが現状です。
中田:いまでは地域、顧客特性(どこにいても、いつでも迅速にシームレスなコミュニケーションが取れるように、メールやスマートフォンアプリを含めさまざまなオンライン接点や店舗などのオフライン接点を含めて色々なチャネルを連携させるオムニチャネルを好むといった嗜好の加速)やコンテキストに合わせて、数百万にまで必要アセットが増えました。かつてAmazonの「あなたにおすすめ」で驚いていた人々は慣れ、いまではそうした環境に眉一つ動かさず、当然のように受け止めています。
久田:人々は企業よりも先にパーソナライゼーションに慣れています。また、これまでは人力で対応するには限界があったコンテンツ需要に応える生成AIなどの新技術も出てきています。AIと協働するような新たなマーケティングに移行しなくてはならないのです。
もちろん、倫理についてのガバナンスやプロンプトの指示など、“指揮者”は人間が担う必要がありますが、AIで実現する効率化・標準化によって人間はクリエイティビティを発揮するなどより本質的な業務に集中できるようになるでしょう。
気になるのは、国内企業はAIを活用しようにも、DX自体が奏功していない場合も少なくないという現実です。システム開発の全工程を賄うSIer(システムインテグレーター)の存在を否定するわけではありませんが、DXにはシステム構築だけではなく、組織構造や業務フロー自体の改革などもっと俯瞰した取り組みが必要です。
中田:企業のDXが進んでいないという現状は、私たちも認識しています。そんなときに思い浮かぶのは、「Burn the Boats」という概念です。DXを奏功させるために、新しい島に渡った後に舟を燃やしてしまう。戻りたくなる気持ちを断ち切るために、退路を断ってしまう必要があるのかもしれません。もちろんリスクヘッジの方法は考えるべきですが。
豊島:戻ろうという気持ちが日本企業に残りやすいのは、欧米と比較して多様な人種や言語への対応を考慮せずに行う特殊なマスマーケティングで売れてきた、過去の成功体験があるからだと思います。だからものづくりは発展しても、パーソナライズされたマーケティングが育ちにくかった。しかし今後の人口分布・価値観の多様化、国内マーケットの縮小状況を考えると、これまでのやり方で「売れ続ける」と考えることは困難です。デジタルを通じて新しい顧客に出会うことも視野に入れ、前に進み続けるための仕掛けが必要です。
アクセンチュアとアドビのパートナーシップで実現する大規模なパーソナライゼーション
──デジタルエクスペリエンスの変革に対して、2社はどのようなビジョンを描いているのでしょうか。
中田:アドビは「Adobe Summit 2023」でご紹介した通り、ジェネレーティブAI技術をAdobe Creative CloudとAdobe Experience Cloud双方のアプリケーションに統合します。ここには画像生成AIとして話題が集中している「Adobe Firefly」や、大規模言語モデル(LLM)を活用したマーケティングコピーの生成やチャット機能の投入も含まれます。
他にも顧客体験に一貫性をもたせる「Personalization at Scale」の深化や「次世代B2Bエクスペリエンス」についても盛り込んでいますが、なかでも重要性が高いのが、アクセンチュアとのパートナーシップで実現したコンテンツ サプライチェーン サービスです。
長岡:コンテンツ サプライチェーン サービスは、企業のコスト削減、効率化、成⻑促進支援のためのサービスで、アドビはプラットフォームを担当、アクセンチュアはコンサルティングを担当することで、ビジネスを上流から改革することができる仕組みとしてリリースしました。
豊島:私たちは、マーケティングをいかに企業のバリューチェーンの中心に置けるかという点を重視しています。コミュニケーションだけでなく、製品開発や需要予測にもマーケティングのデータを生かすイメージです。
AI以前は、パーソナライズマーケティングを目指そうにも、情報のサイロ化や実行できる施策数に限りがあるなど課題がありました。パーソナライズを細かくすればするほどその単位でデータ分析とコンテンツ制作が必要となり、クリエイターやマーケターなど多くの関係者の工数が嵩んで結局ROIが悪くなるという構造があったのです。しかし、コンテンツ サプライチェーン サービスがその常識を塗り変えます。
コンテンツ サプライチェーン サービスでは、マーケティングのデータをコンテンツの企画から分析まで工程ごとに活用します。顧客インサイトを各チャネルに合わせた多種多様なコンテンツ展開につなげ、さらにはその結果をフィードバックするのです。また、分析や関係者コミュニケーションにはRPA AIを、コンテンツ制作には生成AIを活用することで、物量と工数の直線的な相関関係から解放されます。
これにより、「コンテンツの企画から制作までのプロセスの最適化」と「コンテンツの配信から分析までのプロセスの最適化」が同時に行えるようになりました。その結果、パーソナライズされた顧客体験を大規模に展開できるようになります。もちろん、効率化はマーケティング組織のコスト削減にもつながります。また何よりも、マーケティングを中心とした企業活動のバリューチェーンを実現する。そうしたソリューションを実現できる環境として、Adobe Experience Cloudは最適解のひとつです。
グローバルでの成功事例
──グローバルではアドビとアクセンチュアのパートナーシップは、よく知られているのでしょうか。久田:グローバルでは、アクセンチュアは「Global Adobe 2023 Digital Experience Partner of the Year」や世界各国の「Digital Experience Partner of the Year」を受賞するなど、アドビとは顧客の成長を加速させるために、長い年月にわたって強固な協力体制を築いてきました。
中田:実際に海外で進んでいる、アクセンチュアと構築したグローバルのコンテンツ サプライチェーン サービスには、例えば巨大ホテルチェーンのブランドガイドラインに応じたクリエイティブの大量生産があります。プロセスの標準化、自動化を進めることで、コンテンツ制作を倍速で行えるようになりました。
他にも大手自動車メーカーのデジタル技術の近代化も進めました。デジタル基盤への大規模投資とともに、マネジメントからアナリティクスに至るまで、コンテンツ サプライチェーン サービスで最新の環境にアップデートしたのです。
米国の巨大家電販売チェーンの場合は、複雑な管理システムの運用を見直し、シンプル化かつコスト減を実現。同時にアドビのクラウドサービスへの移行で、セキュリティも担保することができました。
長岡:大手IT企業グループの例では、代理店へ行っていた複雑な発注業務を、コンテンツ サプライチェーン サービスで簡素化しました。事業を進める場合に、業務を外部に発注するのか、内製していくのかという議論が白熱しがちです。しかしシンプルなシステムであれば、本当に自社に必要な外注・内製の適切なバランスは、自然と浮かび上がってくるのです。
改革を進めるうえで大切なのは、ブランドガバナンスです。各プロセスに至るまでしっかりとブランド価値を生む仕組みを構築しておけば、実行自体は内部でも、外部でも、AIでも適切に行えるようになるのです。
アドビ×アクセンチュアで描くカスタマー・エクスペリエンス・マネジメントの未来
──最後に、2社で描くカスタマー・エクスペリエンス・マネジメントの未来について教えてください。
久田:ハイパーパーソナライゼーションを施されたリアルタイムのコンテンツ提供を可能にするコンテンツ サプライチェーン サービスは、まさに顧客の購買行動までのラストワンマイルを乗り越えるサービスだと言えるでしょう。これまで考えられなかった効率とスピード、質と量で実現するコンテンツ提供を通して、新たな顧客体験を形づくることができるのです。さらに、得られたデータを製品開発や需要予測に反映することで、マーケティング活動を企業のバリューチェーンにも生かす。マーケティングモデルそのものの変革を始める強力な第一歩になり得ます。
中田 デジタルエコノミーは、コンテンツの充実により活性化していくものです。その量と質を同時に担保できるコンテンツ サプライチェーン サービスは、まさにデジタルの未来を担う仕組みなのだと思います。
長岡:コンテンツ サプライチェーン サービスによる、高度なコンテンツサプライチェーンの提供から生まれる可能性は、測りしれません。クリエイティブかつパーソナライズしたデジタルコンテンツが、企業成長に直結し、経済を発展させていく世界を楽しみにしています。
豊島:日本企業に対してもコンテンツ サプライチェーン サービスの支援を加速していきたいです。両社のグローバルの知見も生かしながら、顧客体験の刷新を通して、日本企業がマーケティングをグローバル規模でパーソナライズされた形に進化させるお手伝いができればと思います。
久田祐通(ひさだ・ひろみち)◎アクセンチュア Accenture Song マネジング・ディレクター。2001年IMJ入社、12年IMJ取締役に就任。16年よりアクセンチュア ソングの前身アクセンチュア インタラクティブに参画。デジタルマーケティングやオウンドメディアをコアとした顧客接点最適化のマネジメントを指揮する。
豊島 周(とよしま・しゅう)◎アクセンチュア Accenture Song マネジング・ディレクター。05年アクセンチュア入社。戦略グループを経て15年より製造流通本部へ異動し、経営課題の多くがデジタル領域になったことを契機に当該領域の戦略とDX領域に注力し、20年よりアクセンチュア ソングの前身アクセンチュア インタラクティブに参画。
長岡昌吾(ながおか・しょうご)◎アドビ パートナー営業部 執行役員本部長。14年、アドビに入社。Creative Cloudの戦略パートナーとのアライアンスを担当後に、マネージャとしてチームを率い、現在は執行役員に就任。Creative Cloud, Document Cloud, Experience Cloudの3つの事業領域にて日本国内のパートナービジネスを統括。
中田早都次(なかだ・さとし)◎アドビ デジタルストラテジー&ソリューションコンサルタント本部 執行役員本部長。NRI、企業、ボストン・コンサルティング・グループを経て19年よりアドビに参画。Creative Cloud, Document Cloud, Experience Cloud の3つの事業領域にてデジタルストラテジーおよびソリューションコンサルタント日本地区統括を務める。