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2023.07.08 11:30

「ストーリー」の威力 海外で爆発的に売れる干し椎茸とは

中道:日本の価値を維持し進化させていくには、杉本さんのように外に一歩踏み出すことが大事だと思うのですが、なかなかそこに行きつかないのが現実です。海外に出て感じたことは「ストーリー」の威力だと記事でおっしゃっていましたが、具体的にどういうことですか。
 
杉本:高千穂町役場の人に誘われて参加した2019年のドイツの物産展が僕らにとって大きなターニングポイントになりました。出発前に送った荷物が行方不明になったため、急きょスーツケース2つに詰められるだけ商品を詰めこんでドイツに運んだのですが、税金の関係でそれは販売できないと言われて。今ならそうなることはわかりますけど、当時はまだ慣れていなかったんです。

ちょうどEUのアマゾンで販売を始めていたので、「アマゾンで買ってね」という話ができればいいかなと思って商品を全部煮物にして2日間で1200食を試食として配りました。


僕らが通常取引するのはバイヤーと言われる人たちですけど、物産展のお客さんは一般人。自分のお財布で買物をするので非常にシビアなジャッジをする人たちです。そういう人たちが試食した時に「こんな食感や旨みのあるの椎茸は食べたことがない。他のとどう違うんだ」と聞いてくるんですよ。

それで椎茸の品種や栽培方法の違いを一から説明するわけです。クヌギの木原木を伐採して菌を植え、無農薬で露地栽培をしています。植菌して2年後に椎茸が発生します。それから6年間、春と秋に収穫をして、それを生産者が乾燥させます。原木は7年で養分がなくなり土に返り、切り株は芽が出て15年ほどで再び原木の伐採の時期を迎えます。
 
そう説明すると、みんなびっくりします。あるドイツ人の女性は「ワオ! サスティナブル」と感嘆していました。アマゾンの価格より高くてもいいから今すぐほしいという人たちも現れました。

パッケージデザインに目を向けたり、何グラム入っているのかと聞いたりする人はひとりもいません。そんなことよりも、商品の成り立ちや、そのモノの背景にあるストーリーを話すと、彼らはため息交じりにうなづくんです。ああ、自分たちの価値はそこだったんだと、ようやく気づきました。
 
とくにベジタリアンやビーガンの人たちに僕らの椎茸の旨みや食感を気に入ってくれる人が多いんです。彼らは教養も所得も高いので僕らが狙うべきお客さんだと気づきました。それで翌年参加したアメリカの展示会には、動物性食材を一切使っていない「ビーガン煮物」を作り上げて出て行きました。

海外に出ようと思った時、最初は和食を紹介しようと思っていたんです。「これが伝統的な和食です。どうだ見てくれ」と。でも、そうじゃないんですよね。食べ方なんてどうでもいいんです。むしろ、「素晴らしいね、これはオムレツに使いたいな」とか「お肉に乗せて焼いたら美味しいだろう」と、使い方は相手が決めるのです。展示会でお客さんの声を聞き方向性を修正していくことで、お客さんをつかむ精度をあげることができたと思っています。
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文=久野照美 編集=鈴木奈央

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