政治

2023.06.15 11:15

ウクライナは過去から学ぶ、20年前の米軍の戦術でロシア軍を突破

第35独立海軍歩兵旅団がマカリフカ入りした後、ある隊員は「ロシア軍兵士らはマスティフに乗った我々がこれほどのスピードを出すとは思っていなかった」と語った。これはまさに米軍が2003年の最初のサンダーランでとった戦術だ。

「前夜、シュワルツは部下に時速15キロ、車間距離50メートルを維持するよう具体的な指示を出した」と米海兵隊の少佐ジョナサン・ピーターソンは2017年の論文で指摘している。数十の車両が約45メートル間隔で並ぶ隊列の場合のスピードは時速約14キロだ。

ピーターソンは「戦車の脆弱な部分である後部の排気口グリルに敵が砲撃できないようにするため、 操縦手はこの厳しい車間距離と速度を維持するよう指示された」とも書いている。「すべての砲手と車長は視界に入った標的を破壊し、先頭車両から後方車両へと標的を減らしていく責任があった。周囲360度で展開される戦闘で敵の防御を貫く火柱となるようなものだ」(ピーターソン)。

サンダーランが20年後に復活したことは、ウクライナ軍が過去から学び、古い戦術を新しい戦争に応用する能力があること、そしてロシア軍が同じことができないことを物語っている。

だがサンダーランは特定の条件下でのみ機能することは指摘するに値する。第35独立海軍歩兵旅団は敵の防御体制が比較的弱い軸の1つに沿って攻撃している。地雷原に遭遇したとしても、マカリフカから西に約64キロいったところにあるマラトクマチカの南で、ウクライナ軍の第33独立機械化旅団と第47独立機械化旅団による6月8日の攻勢を阻んだより危険な地雷原のようなものではないだろう。

第35独立海軍歩兵旅団が南へとサンダーランを続ける際の危険は、地雷だけではない。衝撃的な効果を生み出すのにサンダーランは勢いに依存し、その衝撃的な効果によって敵の部隊を散り散りにすることができるため、車両をいくつか失うだけで悲劇的な停止へと向かう。

2003年に米軍でそのような事態が起こりそうになった。最初のサンダーランで、イラク軍のロケット弾が1両のM1を動けなくした。部隊はこの戦車を再び動かすために30分を費やし、その間、兵士の士気はギリギリのところまで落ちた。ある将校は「装甲車を失ったときの心理への影響は大きい」とコメントした。

シュワルツは最終的に戦車を捨てて前進を続けるよう命じた。この決断がサンダーランの失速を防いだのかもしれない。ウクライナ軍も同じような決断を迫られることがあり得る。勢いを失うことなく前進するためであれば、戦車や装甲車を数両捨てる価値はある。

第35独立海軍歩兵旅団のスピードを考えると、モクリ・ヤリー川に沿った軸はウクライナ軍にとって南部戦線の中でも成果の大きな軸の1つかもしれない。特に、陸軍旅団がマラトクマチカを突破できない場合はなおさらだ。

ウクライナ軍が6つ以上の旅団を予備として保有しているのは周知の事実で、先頭の旅団がロシア軍の防御に最も大きな穴を開けたときに配備するのを待っている。第35独立海軍歩兵旅団のサンダーランが長引けば長引くほど、ウクライナ軍の指揮官は同じ軸に沿って突き進む旅団を追加で送り込む可能性が高くなる。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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