ビリルビンは、古くなった赤血球にあるヘモグロビンが壊れてできる黄色い色素。血液中のビリルビン濃度が異常に上昇すると、皮膚や白眼が黄色くなる黄疸が起こる。新生児が黄疸を発症すると、脳性麻痺を引き起こす可能性がある。一方で、適度な濃度のビリルビンは抗酸化物質として働き、高血圧症や糖尿病などの発症リスクを下げる効果があると言われ、ビリルビンは人体に害とも益ともなる物質として知られている。
研究グループは今回、ビリルビンに結合すると強い蛍光を発するタンパク質UnaG(※)を植物細胞に発現させることで、 植物にビリルビンが存在しているかを調べた。すると、実験モデル植物のシロイヌナズナ、ベンサミ アナタバコ、ゼニゴケのいずれの細胞でも、葉緑体中でUnaG が強い蛍光を示した。植物からUnaGタンパク質を回収してみると、ビリルビンの結合が確かめられ、様々な植物種にビリルビンが存在していることが明らかになった。
次に植物細胞でどのようにビリルビンが生産されるか調べるために、葉緑体内の環境を試験管内で再現してヘム(※2)の分解反応を起こした。すると、反応後の液中にビリルビンが含まれていることが判明。そこで、ビリルビンの産生に必要な最小の要素を絞り込んでいくと、NADPH(※3) という還元力の高い分子と、ビリベルジン(※4)が存在すれば、酵素なしでビリルビンが産生されるということが分かった。
さらに、植物のビリルビンは光合成の際に発生し、光合成効率を低下させる原因となる酸化ストレスを、低減する働きがあることが明らかになったという。
研究チームは、まだ不明点が多い植物におけるビリルビンの機能についてより詳しく解明していく必要性があるとし、今後、臨床的に重要なビリルビンについて、植物科学からの研究が進むことで細胞機能にもたらす普遍的な役割が明らかになり、医学や健康科学に寄与することが期待されると説明。また、ビリルビンが葉緑体の酸化還元状態の維持に働いていることから、将来的には強光下でも効率的な光合成が可能な、高収量の作物開発につながる可能性をあげた。
※1 ニホンウナギから発見されたタンパク質で、ビリルビンと結合すると緑色の蛍光を発する。ビリル ビンと結合しない状態では全く蛍光しないが、ビリルビンと結合すると緑色蛍光タンパク質GFPに匹敵する強い蛍光を発するようになる
※2 酸素の運搬などを行う、生物に必要不可欠な分子。人体においては、ヘムの多くが赤血球中のグロビンというタンパク質に結合した「ヘモグロビン」として存在し、酸素を全身に輸送する機能を果たしている
※3 ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の略。多くの化学反応の補酵素として働く。他の物質に電子を供与して還元し、自身は酸化型のNADP+に変化する。光合成においては吸収した光エネルギー が電子に変換され、NADP+に受け渡されることで大量のNADPH が産生される。NADPH はCO2固定に必要なエネルギーとして利用されるが、強光の環境下では過剰な還元力として葉緑体の酸化還元状態を撹乱する原因となる
※4 ヘムの分解産物の一つで、ビリルビンの前駆体。打撲の際にできる痣の緑色の原因となる物質
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