警視庁が発表した2021年の「山岳遭難の概況」によれば、遭難者数は3075人、そのうち無事救助された人は1635人と約半数です。遭難の原因は約4割が道迷いで、7割近い人たちが携帯電話で救助を求めています。しかし、電池切れや圏外を含め、救助要請ができなかった人は2割近くあり、その場合はじっと助けを待つという非常に危険な状態に置かれることになります。大勢の人やヘリコプターを使っても、険しく広大な山の中でひとりの人を見つけ出すのは至難の業。そこで、低空をくまなく自律飛行できるドローンが活躍します。
仙台を拠点にドローン事業を展開する東北ドローンと東北大学タフ・サイバーフィジカルAI研究センターは、「ドローン電源投⼊から空撮、遭難者発⾒、クラウド経由の報告までを完全⾃動化」する遭難者探索システムの開発を進めています。ドローンに熱画像カメラと物体検出AIを組み合わせ、遭難者を発見して座標を報告するというシステムです。空から人らしきものを見つけて場所を特定する作業は、ただ「見つけるだけ、飛ばすだけではない総合的なシステム」が必要になるとのことです。
物体検出にはYOLOv7というフリーの物体検出モデルを使用し、夜間でも人を探せる赤外線カメラの画像を解析します。しかし、ドローンから基地に膨大な画像を送信しなければならず、重要な部分だけを抽出して送るなどの工夫が盛り込まれています。
このシステムは、2022年に北海道の上士幌町で開かれた遭難者救助のテクノロジーを競うロボットコンテスト「ジャパン・イノベーション・チャレンジ2022」で検証されました。山中に配置した体温のあるマネキン人形を探すというコンテストですが、そこでの課題は「標高差がある広大な山間部に設定された場所での自動航行や、夜間飛行、遠隔地での離発着管理」でした。険しい地形や低温などの影響により通信トラブルなどが重なり、制限時間内の課題達成はできませんでしたが、自動航行で戻ってきたドローンを調べたところ、ちゃんと人形を検知していて、位置もほぼ正確に特定できていたことがわかりました。その経験をもとに、現在は実用化に向けて発見の精度を高めているところです。ただ、ビジネスよりも社会的な意義を重視した研究であるため資金調達が難しく、スポンサーを募集しています。
山で遭難したら、夜間でもドローンが探しに来てくれると思うと大変に心強いですが、登山計画書、登山届を提出しておかなければ、ドローンも的確な捜索ができません。登山のお約束はキッチリ守りましょう。
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