新型コロナ後遺症に「酸素療法」が有効か テルアビブ大学が発表

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正常に機能している心臓は、収縮と弛緩を繰り返している。その力を測定するために用いられるものの1つが、心筋の長軸方向の収縮機能(GLS)を調べる心エコー検査だ。心筋が体に十分な酸素を供給しているかどうかを判断することができる。

GLSの数値は、拡張末期の心筋の長さを基準として、そこから何%伸縮したかを表すもの。心筋が十分な酸素を供給しているとされるのは、値が−20%のときとされている(値が正の方向にあるとき、左室機能は低下していると判断される)。

イスラエルのテルアビブ大学サックラー医学部が先ごろ発表した研究結果によると、新型コロナウイルス感染症の後遺症(ロングコビッド)に悩む60人のうちおよそ半数は、感染してから3カ月以上が経過した後も、心臓の機能が低下していた。

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の症状と類似しているとされる新型コロナ後遺症の主な症状には、呼吸困難、ブレインフォグ、うつ病や不安障害などの精神症状、嗅覚・味覚の喪失、長引く咳、体の痛みなどがある。

こうした症状を緩和させる方法を探るため、マリーナ・ライトマン教授が率いるテルアビブ大学サックラー医学部の研究チームは、ロングコビットの患者60人を対象に「高気圧酸素治療」のランダム化比較試験を実施した。

この療法は、高気圧の環境下で100%の濃度の酸素を吸入することで、体に十分な酸素を供給し、組織の大半を活性化させるというもの。感染によって炎症や損傷が起きると、組織が受ける酸素供給量は不足したり、極端に少なくなったりする。そうなれば、体の治癒により長い時間がかかるようになる。

高気圧酸素治療は、血管内に流入した空気によって形成された気泡を取り除くことや、開放傷の治療に効果がある。一般的には、スキューバダイビングによる減圧症の治療に用いられている。

研究チームは、心機能が低下していた29人のうち、16人に高気圧酸素治療を受けてもらい、ほかの13人は「対照群」とし、酸素マスクを装着して21%の濃度の酸素を吸入してもらった。

8週間わたり、週に5回の治療を受けてもらった結果、酸素マスクを着けて90分間(20分ごとに5分の休憩を挟みながら)、濃度100%の酸素を吸入した16人には、心機能の改善が確認されたという。

高気圧酸素治療を受けた患者は、開始前に平均−17.8%だったGLS値が、−20.2%まで改善した。一方、対照群の患者の数値は、−19.1%だった。この結果が示唆するのは、この療法がロングコビットの症状の1つである心機能低下の回復を促すということだ。

ただ、ライトマン教授はこの結果を公表したプレスリリースで「治療の結果を長期的に調べ、最大の効果を得るために最適な治療の回数を特定する必要があり、そのためにはさらなる研究が必要だ」と述べている。

研究チームは5月10日からスペインのバルセロナで開催された欧州心臓病学会(ESC)と欧州心臓血管画像学会(EACVI)の年次学会で、この研究結果を発表した。

forbes.com 原文

編集=木内涼子

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