2006年にセルビア・モンテネグロから分離独立後、未来を見据えた国づくりを進めるモンテネグロは、欧州初の「長寿志向国」になるための基盤を整えようとしている。長寿志向国(longevity-oriented state)というのは、現在の国民の健康寿命とウェルネス(心身の健康)優先する政策を実施すると同時に、将来に向けて長寿の研究や技術開発のイノベーション拠点を育成していくという構想だ。
旗を振るのは、中道派の新党「今すぐ欧州(Evropa sad!、英語名Europe now!)」を率いるミロイコ・スパイッチ元財務・社会福祉相。35歳と若く、エネルギッシュな政界のスターは外国で暮らした経験もあり、日本語、標準中国語、フランス語を流暢に話す。政界に入る前は米Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)でインベストバンカー、その後シンガポールのDas Capital(ダス・キャピタル)でベンチャーキャピタリストを務めた経歴をもち、ダスでは日本最大級の仮想通貨取引所bitFlyer(ビットフライヤー)への投資も手がけた。
昨年まで務めた財務・社会福祉相としては、加糖飲料への課税をはじめとする予防的な政策を断固として実行に移した。スパイッチは国のビジョンとして、モンテネグロをイノベーティブな事業や起業マインドのある人のプラットフォームにすることを掲げている。進歩的な移民政策や規制政策を整備して、優れたアイデアや人材を呼び込もうというものだ。
モンテネグロ政府はすでに、ブロックチェーン技術の拠点化に向けた措置を講じている (イーサリアムの生みの親であるヴィタリック・ブテリンは最近、モンテネグロの市民権を与えられた)。今後はさらにAI(人工知能)やヘルステック、長寿バイオテクノロジー、バイオマニュファクチャリング、合成生物学といった先端産業の拠点も整備されるかもしれない。
モンテネグロが長寿国としての地位を確立するには、いろいろな政策メニューがある。たとえば、老化を病気と宣言する、終末期の患者に未承認薬の試験利用を認める「試す権利(Right-to-Try)法」を整備する、認定したパートナー団体をビザ申請時の保証人として認める、就労許可の取得手続きを迅速化する、などだ。自国や旧ユーゴスラビアの隣国の大学生らに、長寿バイオテクノロジーの学習や研究を奨励するといった手もある。
長寿国・地域の研究や創出を専門とする機関Vitalism(バイタリズム)は、こうした政策によってモンテネグロは人材や資本を誘致し、バイオテクノロジーのイノベーション拠点になることができるとみている。また、老化は主な慢性疾患の根本原因であることが多いため、生活習慣への介入と効果的な長寿医療、老化に関する研究・開発への支援を組み合わせた戦略は、経済的にも非常に大きなメリットがある。