東京オリンピックで2つの金メダルを獲得した競泳の大橋悠依選手は、日本人女性初のプロスイマーへの転向を決めるなど、世界の舞台で輝かしい功績を残したあとも挑戦を続ける時代の先導者。体調不良による成績不振やコロナ禍という逆境にさらされながらも、なぜ彼女は折れずに戦い続けてこられたのか。自身を鼓舞するモノや水泳を続ける原動力に迫る。
ベストを尽くすこと、その結果が勝利につながる
「最後の最後、自分を突き動かすことができるのは、自分しかいないと思うんです」
水泳という競技は究極、「自分との戦い」なのだと大橋悠依は言う。自己ベストを更新するために日々黙々と練習に取り組み、レース本番も我が道をひたすら突き進んだ先に納得のいく記録と勝利が待っている。2021年夏の東京オリンピック、200mと400mの個人メドレーで金メダルを獲得した大橋は、それを最も体現してきた人物に違いない。昨年3月には日本人女性として初のプロスイマーに転向し、自分を突き動かし続けている。
「大学のある時期まで、私はそんなに速い選手ではなかったんです。体調不良などで、どうしても成績が伸びない時期も経験しました。それでも水泳を続けてこられたのは、高校の卒業文集に書いた『水泳選手になりたい』という夢を実現したかったからです」
自分で決めたことは何があっても貫き通す。強い信念のもと、見事に夢を叶えたのがオリンピックの舞台だった。
金メダルを獲得して、すべてに意味があったと実感できた
新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年3月。東京オリンピックが延期になると発表された。いつオリンピックが開催されるかも分からない、大会自体が中止になるかもしれない——そうした不安定な情勢の中でも、「ひたすら練習するしかなかった」と当時を振り返る。
「水泳は数カ月の練習でタイムが出るような競技ではないので、年間を通しての泳ぎ込みや、ベース作りが大事になってくる。だからあの時期は、1年後とか2年後とかに『あのとき泳ぎ続けていたのが効いたな』と思えれば万々歳という気持ちに切り替えて、ひたすら練習を積み重ねていました。でも、やっぱり精神的にはつらかったですね」
周りがどんな状況であっても、自分のベストを出し尽くす。それは元来の大橋が持つ強さだが、コロナ禍にあっては想像だにしない重圧があったことだろう。それでも訪れた、2021年夏の東京オリンピック。
「これは本当に意味があるのかな……と思いながら1年間、練習を続けていたので、金メダルを獲得したときはすべてが報われたような気持ちでした。ちゃんと全部に意味があったんだって、そう思える結果を残せたのが嬉しかったです」
プロスイマーという未知の挑戦。後進の憧れとなる存在に
プロスイマーへの転向を決めたのは、オリンピックが終わって間もない頃。日本競泳界では北島康介や萩野公介に続く5人目の事例で、女子選手では史上初となった。この決断は、後に続く選手たちのことを見据えたものでもあったという。
「ほとんどプロのような形であっても、競泳界ではアマチュアのまま競技生活を続けるのがスタンダードになっています。そしてこれまで女子選手のなかには、プロスイマーになる人がいなかった。そうしたなかで、私は金メダルを獲得した立場として、これからの選手に対して『水泳を続けるための選択肢』をもっと増やしたいと思ったんです。オリンピックや世界水泳を目指すだけじゃない選択肢もあるんだということを伝えていきたい」
世界一の称号を手にしても挑戦することを止めない大橋の姿勢が、日本競泳界をさらなる高みに導いていく。そうしたプロの矜持は、伝統と革新を重んじるFENDIのDNAにも通じるものがある。
「アスリートにも挑戦は不可欠ですし、同じことを続けているだけでは現状維持か後退するしかないと思っています。年齢や身体の調子に合わせて重視すべきポイントは変わっていくので、その変化に敏感に反応して練習内容も調整していかなければいけません。今日実際にFENDIのプロダクトに触れたときに、革新的なデザインに挑む姿勢に共感できたのも、私自身が“変化”を良いものと捉えているからかもしれません」
逆境をはねのけながら、自分自身を鼓舞していく
水泳に心血を注ぐ大橋が息抜きのために大事にしていることのひとつが、オフの日に好きなファッションに身を包んで外出すること。この日もFENDIの洋服を身にまとい、「好きなものを着たり、持ったりしているだけでワクワクしますし背筋が伸びます」と笑顔を見せた。
「4年くらい使い続けていた財布があってそろそろ買い換えようと思ったときに、たまたまSNSでFENDIの新作のコレクションが出るという情報を目にして。写真を見たらデザインやかわいいグリーンの色味に一目惚れして、すぐに店舗に足を運んで購入したんです。その数日後に今回の取材オファーをいただいたので、運命的なものを感じました。この財布を持っているだけでテンションが上がって、日々の生活に彩りが加わっています」
そんな大橋の次なる目標は、今年の7月に福岡で開催される世界水泳だ。
「現役の間に自国開催での国際大会がこんなに回ってくるのはとてもラッキーなことだと思っていて。それだけ多くの人が見にきてくださると思うので、ワクワクしてもらえるようなレースにしたいという思いがあります」
最後に大橋に改めて「自分自身を鼓舞してきたものは?」と訊ねると、これまでの競泳人生で何度も逆境に耐え抜いてきた経験について話してくれた。
「怪我や体調不良を何度も経験してきましたが、そのたびに『これよりはもっとよくなるはず』と信じて諦めずに続けてきました。もちろんできるだけ怪我はしないほうがいいんですけど、私は逆境があった方が燃えるタイプで。レースにおいても、『メダルを取るんだろうな』と期待されていないほうが『やってやろう!』と思うんですよね。下剋上が大好きなんです(笑)
私の将来の目標のひとつは、水泳というスポーツをもっと多くの人に広めること。競技としてだけでなく、もっと生活に身近なものになったらいいなと思っていて。海外だと、朝の早くから地元のプールが開いていて、水中ウォーキングをしているおじいちゃんやおばあちゃんがいるんです。そんなふうに気軽に、もっと親しみやすいものになるように、水泳の魅力を発信していきたいと思っています。これもある意味、下剋上かもしれませんね」
大橋悠依◎1995年、滋賀県生まれ。競泳選手(イトマン東進所属)。3歳のときに水泳を始めた。2021年の東京五輪で200mと400mの個人メドレーで金メダルを獲得。同種目の日本記録保持者でもある。
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