映画

2023.05.20

ウィル・スミスが演じた、全力で戦う父親の姿丨映画「幸せのちから」

映画「幸せのちから」より イラスト=大野左紀子

日本国憲法13条には「生命、自由及び幸福の追求に対する国民の権利」という文言がある。

これがアメリカ独立宣言の一節「life,liberty,and the pursuit of happiness(生命、自由、幸福の追求)」に由来することは、よく知られている。

この「幸福の追求」とは何を意味するのだろうか。さまざまな考え方があり、法的に統一された見解はないようだが、一つの根強い考えとしてアメリカでよく言われるのは、私的財産の獲得ということらしい。

”The Pursuit of Happyness*”を原題とする『幸せのちから』(ガブリエル・ムッチーノ監督、2006)は、アメリカ有数の実業家クリス・ガードナーの、成功までの困難に満ちた半生を描いたドラマだ。ウィル・スミスと息子のジェイデン・スミスの共演で話題となった。
*Happynessのyは本当はiだが、ドラマの中で子どもによって書かれた間違った綴りを採用している


左からクリストファー役を演じたジェイデン・スミス、クリス役を演じたウィル・スミス(2007)/ Getty Images

「ホームレスから奇跡の大逆転」「所持金21ドルから這い上がった父と子の感動ドラマ」といったキャッチコピーからもわかるように、資本主義社会で裸一貫からのし上がっていったアメリカンドリームの体現者を、息子思いの頑張り屋の父として描き出している。

「幸福のちから」の凄まじさを描く作品

冒頭に出てくるのは、やはり独立宣言の一節「生命、自由、幸福の追求」という文言。ついで映し出されるのは、余裕のありそうな人々の中に混じった貧しい人々の姿、アメリカ社会の厳然たる”クラス”の差である。「幸福の追求」とは、私的財産の獲得、つまり「金を稼いで今より少しでも上の階層に行くこと」を指していることを示唆するプロローグだ。

お金のあることだけが幸せではない、とはよく言われるが、一方で、貧しさから生まれる悲惨もよく知られている。そして「お金が欲しい」は容易に「一攫千金を狙いたい」に結びつく。

こうした価値観を背景に、このドラマは、貧しく若い父親が息子のためにいかにめちゃくちゃな闘い方をせねばならなかったかという、崖っぷちに立たされた者を駆り立てる「幸福のちから」の凄まじさを、さまざまな実話エピソードをつなげるかたちで浮き彫りにしている。

粗筋を見ておこう。クリス(ウィル・スミス)は妻リンダ(タンディ・ニュートン)、5歳の息子クリストファー(ジェイデン・スミス)の3人暮らし。骨密度測定機械のセールスがうまくいかず、家賃の支払いが滞るほど生活が逼迫しているせいで、仕事に追われる妻との関係にも険悪なムードが漂い始めている。

ある日、証券会社の前に停めた赤いフェラーリから降り立った男に、どうしたらそんな車に乗れるようになるのかと尋ねたクリスは、株の仲買人になることを決意。ディーン・ウィッター社の仲買人養成プログラムに申し込む。セールスマンを続けながら週末は研修を受けるという、二足の草鞋だ。

いつも持ち歩いている骨密度測定機械を盗まれたり、タクシーのただ乗りで追いかけられたり、駐禁の支払いができず一晩留置所に勾留されたりとトラブル続きの中、我慢の限界に達したリンダは家を出て行き、クリスはクリストファーと2人暮らしに。安いモーテルに引っ越し、父子の綱渡りの生活が始まる。

仲買人養成研修は半年。連日、投資プラン売り込みの電話攻勢をかける傍ら、あれこれ雑用も言いつけられて目の回るような忙しさが続き、滞納していた多額の税金請求が来てクリスは破産、息子とともにホームレスとなる。慈善事業を行う教会に連日並んで宿泊所を確保しながら、やってきた研修最後の試験と面接日。クリスはやっと社から正式採用を通告される。
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文=大野左紀子

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