1992年から経営者層に向けた教育サービスを展開する社会人教育のプロ、グロービスにその解決策を聞いた。
巨大な予算をDX推進に投じた企業のうち、どれほどの企業が事業自体の変革を伴う本質的なDXを実現できているだろうか。
昨今では、DXが進まない理由について「デジタル人材」の不足が指摘されることも多い。しかし、グロービスの鳥潟幸志はこう指摘する。
「IT部門だけでなく、経営陣も含め、“社内のあらゆる立場の人間が一丸となって取り組む必要がある”という議論は、恐らく各社で散々交わされたことでしょう。それでも前に進まないのはなぜか。そこに共通言語なり共通認識がないからです」
DXに本当に必要な“力”とは
DXと聞くと、社内全員がデジタルに対する知見を身につけていれば済むと思うかもしれないが、それだけではない。「DXにかかわるすべての人間が職種や立場に関係なく、ビジネスモデルを構築する力、そして人を動かし組織を変革する力、すなわち、“ビジネススキル”を身につける必要がある」と鳥潟はいう。
DXは単なるIT化とは違い、ビジネスモデルや組織を根底から変革する行為であるため、デジタルに詳しいだけでは“真のDX”に至らないというのだ。
多数の人材育成のプロジェクトに関与する中で鳥潟は、DXにかかわる人材が等しく共有すべきスキルの必要性に気づいたという。従来のピラミッド型の組織においては、一部の幹部が優れた経営知を保有していれば、経営がうまく回っていた。しかし、時代は変わり、ネットワーク型組織では、一人ひとりが判断して動くことが必要とされ、意思を持って現場で判断する人材が求められるようになっている。すべての社員に経営知が求められる時代が訪れたのだと言えるだろう。
「要するに決められた手法で効率的に仕事を進めるだけの人材と、事業や経営戦略を理解したうえで施策を打つ人材のどちらが重要か、という話です。後者は経営から指示を受ける前に準備ができます。社員全員がそのような状態になれば、変化対応力が強い組織になるのは明白です」
このような課題に対応すべく、グロービスが展開しているサービスが、法人向けの「GLOBIS 学び放題」だ。これまで30年以上にわたってMBA教育を提供してきた同社が提供する動画学習サービスで、社内の共通言語化を目的とした全社員導入をはじめ、自律的な人材育成を目指す企業など3,300社超の企業に選ばれている。
「GLOBIS 学び放題」がDX人材育成に強みを発揮する理由
「GLOBIS 学び放題」の優位性は、体系的なカリキュラム構成にある。豊富なコンテンツがロジカルに整理されているので、何をどのように選択して、どのような順番で進めればよいのか、迷わず学習を進めることができる。限られた時間のなかで効率よく学びたいと考えるビジネスパーソンにとって重要なポイントとなる。加えて、すべての階層に適応するコンテンツが網羅され、それが学び“放題”で自由に選択できる。「入社時に新入社員向けラーニングパスを学び、3年目に現場リーダーに必要な人材マネジメントを学ぶ。さらに上の階層で学べるコンテンツも用意しているので、学び続けることで、社員が一律の知識を蓄えることができ、社内の共通言語が形成されます」
もちろん学び“放題”であっても、一つひとつのコンテンツのクオリティに不足はない。研究開発チームと連携し、教材は原則的に内製するというこだわりがある。また、同社が運営するベンチャーキャピタル運営の知見やナレッジもコンテンツに生かされている。
テクノベート(Technovate:TechnologyとInnovationを組み合わせた言葉)領域のMBA科目を5年前から提供しているほか、昨年12月、経済産業省が発表したデジタルスキル標準に準拠したラーニングパスを設定。「GLOBIS 学び放題」のコンテンツメニューとしていち早くリリースしている。現時点の日本における標準かつ最新のDXに関する学びが用意されていると鳥潟は言う。
「具体的な学習コンテンツを用意すると同時に、“どの階層が、なぜ学ぶ必要があるのか”ということまで定義し、コンテンツとして提供しています。例えばセキュリティ領域では、“そもそもサイバーセキュリティは経営者やミドル層それぞれにとってなぜ必要なのか”というコンテンツも提供することで、立場・役割ごとになぜこれを学ぶ必要があるのかを理解し、自分ごと化することができるのです」
単にノウハウを伝えるだけでは終わらない。なぜならその学びは実際に仕事のなかで活用しなくてはまったく意味がないからだ。
「仕事は会社のさまざまなバリューチェーンのなかで発生するので、情報を連動して使えるかどうかが重要。業務を理解していない新卒社員にプログラミングを学ばせても、“どのように活用するのですか?”という話です」
生成AIが普及する時代に人は何を学び、どんな力をつけるべきか
DX人材の育成に注力する風潮のなか、奇しくもテクノロジーの進化によって、人の知識や働き方に対する考え方が揺らいでいる。例えば、ChatGPTに代表される生成AIの登場により、簡単な問いに対して答える能力はコモディティ化。知識をもつことの価値が下がるのではないかという懸念も生じている。そんな時代に人にとって必要な力や、必要な学びとはどのようなものだろうか。「適切な問いを立てる力と情報を解釈する力、そして周囲を巻き込んで人を動かすリーダーシップという3つの力はどんな時代でも人の本質的な能力として残ると思います。人として、そういった力を磨きながら最先端のテクノロジーを使いこなすことが理想です」
知識を身につけるだけでは、AIに代替される。身につけた後に何をするか。そのヒントが「GLOBIS 学び放題」に詰まっている。
この先も、時代の変化に合わせて企業が求める人材像は変わっていくだろう。人にとって最適な学びを問い続けてきたグロービスが考える学びの未来はどのようなものか。
「会社だけでなく、社員一人ひとりにも人生におけるミッションやパーパスがあります。個人の思いと会社の方向性とをいかに一致させるかが重要になっていくでしょう。そういった観点で、人材育成においても個人のウィルを引き出し、ウィルと会社が目指す方向性をすり合わせていくプロセス設計、そこに知識・教育が必要になります」
そういった意味で、教育は限りなくパーソナライズされていく。100人いたら100通りの学習プロセスがあり、ゴール、そして時間軸がある。個人が最適な学びを得て自分の夢に向かう努力ができれば、そこには必ず喜びが生まれるだろう。
「教育は最高のエンターテインメントです。知識がつくと、見える景色が変わり、挑戦して反応があればうれしいし、学ぶことで誰かに貢献できる。貢献できると社会とのつながりを実感することができます。そのサイクルそのものが楽しく豊かな人生になるのです」
「GLOBIS 学び放題」のミッションは「学ぶ楽しさを広げ、新たな一歩を後押しする」。
やりたいことや目標があるが、遠慮したり、ひるんだりして前に進めない人を後押ししたいという思いが込められている。
「これまで累計75万人の方に活用いただきましたが、私の目指す状態は、1,000万人超、ほぼすべての社会人に使っていただく事。学び続ける喜びを共有できればと思います」
GLOBIS学び放題 法人向けサービス
とりがた・こうじ◎サイバーエージェントでインターネットマーケティングの法人営業として、金融・旅行・サービス業のネットマーケティングを支援。その後、デジタル・PR会社のビルコムの創業に参画。取締役COOとして、新規事業開発、海外支社マネジメント、営業、人事、オペレーション等、経営全般に約10年間携わる。2018年、グロービスに参画。「GLOBIS学び放題」を立ち上げ、現在は同事業の事業リーダーおよびデジタル・プラットフォーム部門のマネジング・ディレクターを務める。