事業継承

2023.05.13

米最大スニーカー店へ事業売却 atomos創業者がはじめる起業家支援とは

本明氏。1日のほとんどを過ごすStarbucksの前で。

今から約20数年前、原宿の2.7坪という小さな敷地で始まった靴屋は2021年夏、世界最大のスニーカー小売米フットロッカー社が約400億円で買収するほどに成長を遂げた。日本のみならず海外へも実店舗を持ち、世界への事業拡大をも成し遂げたスニーカーショップatmosは「原宿ドリーム」を体現した会社としても名高い。

そんなatmosの創業者、本明秀文氏の起業家として、そして投資家としての顔を独占取材した。

はじまりは道端で3000円の靴が1万5千円で売れたこと

留学時代、見知らぬ通行人に自らが履いていたフランス製のアディダスの靴を「売ってくれ」と話しかけられたことが靴屋を始めるきっかけだったという。

当時の世の中のローファーブームに逆らって、スニーカーを売り始めた本明氏への周囲の風当たりは強かったが、それでも地道に商売を続け、スモールビジネス型で大衆認知度を高めつつ、年々売り上げを伸ばし続けた。
atmos創業期のお写真

atmos創業期のお写真


そうして20年数年間も靴(スニーカー)の商売を続けた本明氏は、自分以外にこれほど長く靴屋をやった人間は周囲にいないとした上で、自分が選んだ靴を売ることの楽しさについても語り、取材当日に履いていたhokaの厚底スニーカーを指差した。

「ニューヨークで出会ったhokaの靴を最初に日本に持ってきた時も、こんな靴(日本では)売れないよ、と周りから言われていた。だけど、半年続けたらグングン売り上げが伸びていった。今じゃランニングするのにhokaのスニーカーを履いている人をよく見るよね。」

自分が良いと感じた靴はたとえ時間がかかったとしても売れる、と自負する本明氏は、それが日本であれ海外であれ変わらないという。このような本明氏の傑出した視野こそがatmosのグローバル展開の成功につながったのかもしれない。

“決して〇〇にこだわらない”がモットー?

今回の取材で日常生活についても語ってくれた本明氏。毎朝4時に起床して散歩していること、1週間に2冊の本を読んでいることなど『普通』の人にはなかなかできないであろう丁寧な暮らしぶりが窺えたが、筆者が最も驚いた本明氏のルーティーンは、毎日の昼食に弁当を作って持参するというルーティーンである。


昼食はコンビニや飲食店に頼る人々が多い中、わざわざ弁当を作る理由を尋ねると「レストランで食べるのもいいけど、冷蔵庫の中から食材を選んで料理するというクリエイティブなことを自分でするのが楽しいから」だと言う。

そう、本明氏は“決して効率にこだわらない”のである。

atmosほど人気なショップの経営者ともなれば、生産性を重視するゆえに何にでも効率を求めるイメージがあるのではないだろうか。しかし、本明氏は「効率だけを追い求めていても人との心が通わないし、商売も結局行き止まってしまう。非効率であるからこそ学べることがある」と話す。
 
本明氏が主催するadidas好きが集う『adidas会』は週末にさまざまな地域で開催され、来場者がadidasのスニーカーついて語り合い、また今後発売される商品情報などが共有される場である。こういった会のアイデアからも、効率にとらわれず人同士の関わり合いを重要視するという本明氏の理念を感じ取れる。
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取材=戸村 光 文=伊藤 香月

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