暮らし

2023.05.21 18:00

子どもも高齢者も、難民も移民も 世界一のシェフが生む「優しい循環」

シェフのマッシモ・ボットゥーラ氏(右奥)、モデナのパスタ工房「トルテランテ」にて

この活動に深く関わる、ボットゥーラ氏の妻、ララさんはいう。
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「学校を卒業した後、子どもたちはせっかく色々なことができるようになっても、その能力を活かす場所がない。そして、自閉症の子の中には、単純作業を行うことに、とても優れている子どももいる」

実は、ボットゥーラ夫妻の長男、通称「チャーリー」も自閉症で、ここに通う子どもたちの一人だ。彼の「こだわり」は、つくったトルテッリーニを整列させ、その数を数えること。几帳面な性格を反映してか、トルテッリーニの形はひときわ綺麗に整っている。

「家族の食事のために、私もトルテッリーニをつくるけれども、チャーリーに『僕の方が上手だ』と言われちゃうの。本当にその通りね」とララさんは笑う。

現在は自治体からの補助金を受けて工房を運営しているため、受給のための条件として参加者に報酬を払うことができないが、敷地内の隣の建物を工房と小売店舗として改修中で、これにより収益を増やし、補助金システムから自立し、きちんと給料を払えるようにすることが次の目標なのだという。
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もくもくと手を動かすチャーリーに「なぜやっているの?」と尋ねると、「だって、みんなファミリーだから」という答えが返ってきた。それを耳にして、目の前で一緒に作っていた年配の女性がうなずく。優しさが循環する居場所をつくること。それが、ボットゥーラ氏がこの場所をつくった究極の目的のように感じられた。


難民・移民の女性とともに

こうしたボットゥーラ氏の思想は、次世代にもつながっている。彼の元で10年間働く女性シェフ、ジェシカ・ロスバル氏も彼から大きな影響を受けたひとりだ。

彼女は2020年から、友人のキャロライン・カポロッシ氏とともに、職探しに苦労する難民・移民の女性たちに職業訓練を行い、彼女たちの故郷の味を提供するレストラン「ルーツ」を展開している。

選考は面談で行われるが、応募資格はイタリア語が話せるかのみで、厨房経験は問わない。「卒業後、多くはモデナ近郊のレストランで働くことが多いため、語学はどうしても必要なスキル。言葉の問題はなくても、出身地や肌の色、そして子どもがいることなどで、まともな仕事が見つけられない」とロスバル氏は言う。

今回は、その趣旨に賛同したアジアのベスト女性シェフ「été」の庄司夏子氏が特別に講師として参加。マリ、エチオピアなどアフリカ各地出身の研修生たち4人に、シグネチャーであるマンゴータルトに使われるマンゴーでつくった薔薇の花を使ったパフェと、竹の皮の代わりに、アフリカでよく使われるバナナの皮で包んだおこわの作り方を指導した。

完成したパフェ(左)研修生たちにマンゴーの花のつくり方を教える庄司夏子氏(右)

完成したパフェ(左)研修生たちにマンゴーの花のつくり方を教える庄司夏子氏(右)(筆者撮影)

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文・写真=仲山今日子

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