北米

2023.05.18 17:00

トルーマン・ミュージアムでみつけた小さな折り鶴

ただ、印象的だったのは、原爆投下後の広島の状況について写真を交えながら詳しく説明していたことだった。核兵器が悲惨な結果をもたらすという事実を強調している。その一角に、透明なケースに収められた小さな折り鶴が、照明に照らされて飾られていた。2歳のとき、広島で被爆した後、原爆症によって12歳で亡くなった佐々木禎子さんが病床で折った鶴だった。背景には、地元の人々が折った折り鶴も一緒に飾られていた。

この展示を見ながら思い出しだのは、2016年5月のバラク・オバマ大統領(当時)の広島訪問だった。オバマ氏は伊勢志摩サミットに機会に合わせ、広島の平和記念公演を訪れた。当時も、米国に謝罪を求める声が上がったが、事前に、謝罪を求めないことを前提にして広島訪問が実現した。オバマ氏は実際、演説では謝罪をしなかったが、その代わりに被爆者の両肩を抱きしめた写真が大きな感動を呼んだ。

核兵器を巡る議論では、長らく、核廃絶・軍縮論者と核抑止論者の対立が続いてきた。どちらも、核の惨禍を二度と繰り返さないことを目標にしている。だが、核廃絶・軍縮論者は、核抑止論者を「好戦的な考え方を持つ非平和主義者だ」とそしり、核抑止論者は核廃絶・軍縮論者を「現実に目を向けない、理想主義者だ」とあざけってきた。両者の対立は根深く、NPT(核不拡散条約)再検討会議は成果を出せず、非核保有国らが中心となって2021年に発効した核兵器禁止条約も、核保有国の不参加で実効性を欠いたままになっている。

トルーマン・ミュージアムの折り鶴もオバマ大統領の広島訪問も、パフォーマンスで核保有の現実を覆い隠したという論評もできる。同時に、核保有国も「核の惨禍を二度と繰り返さない」という覚悟を持っている姿を示したとも言える。だから、オバマ氏の広島訪問は感動を呼んだのだろう。トルーマン・ミュージアムで折り鶴を見た米国の知人は「原爆が良いとか悪いとかの判断は難しいが、戦争は悲惨だという事実をはっきり理解できる」と語った。

ロシアによる核の脅迫や、中国や北朝鮮による核兵力拡大などが続くなか、19日から広島で主要7カ国首脳会議(広島G7サミット)が始まる。ぜひ、核廃絶・軍縮論者と核抑止論者が一歩でも歩み寄れる機会になってほしい。

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文=牧野愛博

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