南雲:森です。今まで、経済の源は土なので、土からその土地の魅力を掘り出していました。その一方で、その地域の土に合っていない木がたくさん生えていることに気づいたんです。人工林とか産業林と言われるもので、いわゆる木の畑です。
木の畑に人の手が入らなくなり、荒れた林があちこちにあるんです。そこが土砂崩れするからコンクリートで埋めて、どんどん悪い状態になっていく。熱海で土砂崩れがありましたけど、そういうことも全部土と関係していることに気づいたんです。
それで今、経済で回らなくなった林を森に戻す活動をやろうとしているところです。お手本は明治神宮です。明治神宮を森にした本多清六さんのメソッドが今も残っているので、それを参考にしながらやろうとしています。
今言われている炭素とか水とかそういうもののためというより、森のある生活を楽しむ、みたいな。人手が入らないと杉が倒れていつか森になりますが、100年ぐらいかかるんです。けれど土壌をつくってあげると、3年から5年で森になることがわかっています。
それをまず、ある工業地帯のビルや空き家やシャッター街で、コンクリートやアスファルトを全部取り除いて森にしようと。そしてそこにホテルを建てます。たくさんの人を呼ぶというより、子どもがリスと追いかけっこしているのを、親が森の木陰でコーヒーを飲みながら眺めるとか、そういう過ごし方ができる場所にしたいと考えています。
1000人に1000円払ってもらうのではなく、100人に1万円払ってもらえる価値をつくりたいんです。地域の人たちに参加してもらって森をつくり、人工物と森をうまく融合させることができれば、持続可能なまちづくりになるのではないかと思っています。
中道:森による持続性とか、日本人がもともと持っていたものじゃないでしょうか。すごいと思います。
南雲: 森にするのもどこでもいいわけではありません。私がやろうとしている案件は、森との関係がもともと深い地域です。その土地にある山や川などに合ったことをやれば、持続可能性やストーリー性のあるものができて、その地域の魅力を伝えることにもなります。そこにしかないものをつくることが、結局は効率的で長続きするのだと思います。
中道:南雲さんがずっとその地域にいるわけではないので、その地域の人たちで動かしていかなければいけない時が来るわけです。だからコンセプトから継続されていく話をしなければいけないので、森や土から普遍的なものを見つける。全部つながっていますね。
南雲:そこに地域の魅力を社会に生かすという工学的な発想を加えることで、結果として地域経済の活性化や人口を増やすといった課題も解決されていく。そういうやり方のほうが、日本全国同じように問題の解決策を考えるよりも健全だと思います。