このような会話が気軽に交わされる未来を創ろうという組織がある。中川政七商店の中川淳会長とTakramのビジネスデザイナー 佐々木康裕が率いるPARaDEだ。「ライフスタンス・エコノミーを拡げる」というビジョンを掲げ、同じ志を持つ11の会社が集い、イベントや勉強会、コンテンツづくりを行っている。
ライフスタンス……この聞き慣れない言葉が、消費者意識を変えることができるのか。その可能性について、同組織を運営する「株式会社PARADE」代表の中川に話を聞いた。
「ライフスタイルじゃないんだよな……」。2000年代に入り、ファッションから雑貨、食、インテリアに至るまで、すべて同じ感性でコーディネートする「ライフスタイル」がブーム化した。日本の工芸をベースにした品をアパレルから小物まで取り揃えた中川政七商店も、当たり前のようにこのライフスタイルのカテゴリーとして認識されるようになる。
それに対し中川には、「洋服からインテリアまで、まるごとうちの商品を選んでほしいわけじゃな」という考えがあり、ライフスタイルという言葉がどうもしっくりこなかったという。
「あくまで生活の一部に取り入れて貰えれば嬉しい、くらいの感覚で。われわれが大切にしているのは、ものづくりの背景や想いを理解いただいた上で、ちゃんと選んでもらうこと。その価値観を、僕が勝手に“ライフスタンス”だと言い出したんですけど、当時は誰にも伝わらず、まったく相手にされなかったんです(笑)」
実はこのライフスタンスという概念、2010年頃に中川が独自に生み出した造語だ。商標登録まで取ったのだが、浸透することなくお蔵入りした。
時は流れて2021年。以前から懇意にしていたデザイン・イノベーション・ファームTakramの佐々木と、これからのビジネスや消費動向について議論を重ねている際、「今こそ、ライフスタンスが重要なのでは」という話で盛り上がった。
昨今、SNSの影響もあり、企業の不祥事が広く知られるようになった。当然、生活者はそうした企業の悪事には加担したくないので、不買運動に発展することも珍しくない。一方で、ではどのような会社が「いい会社」なのかは、未だ見えづらいのが現状だ。
「そこを可視化して、選択肢としてきちんと提示できれば、明るくヘルシーな未来がやってくるんじゃないかと思っていて。いい会社が何かを定義し、集め、それを世の中に伝えることで、いい会社がどんどん成長できる世界が創れるのではないか。それこそ、ライフスタンス・エコノミーを生み出せるのではないかと考えたんです」