数十年前、夜行列車が欧州大陸を縦横無尽に走っていた時代があった。アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』やグレアム・グリーンの『スタンブール特急』といった推理小説で知られる鉄道旅行が隆盛を極めた時代だった。だが、欧州の都市を短時間で結ぶライアンエアーやイージージェットのような格安航空会社が急増したことで、夜行列車は次第に利用されなくなっていった。
ところが今年に入り、国鉄と私鉄の提携によって夜行列車が復活しただけでなく、新たな車両や路線が投入されたり、計画中だったりと、鉄道の旅を愛する人にとっては明るいニュースが目白押しとなっている。これまでは不必要で時代遅れだと考えられていた夜行列車は、今や知的で良識のあるものとして、さらには欧州の混雑した空の便での移動による大気汚染への対策に不可欠なものとして見直されつつあるのだ。
環境問題への配慮もさることながら、夜行列車の旅の最大の魅力の1つは、ある都市の中心から別の都市の中心へと効率的に移動できることだ。空港での乗り継ぎもなく、出発時刻の何時間も前に空港に到着する必要もなく、空の便にありがちな遅れもない。また、寝台車で過ごすことで、その夜のホテル代がかからなくなるという経済的な利点もある。以下に、この夏、欧州で乗りたい夜行列車の新路線5選を紹介しよう。
グッドナイト・トレイン(ベルギー~ドイツ)
ヨーロピアン・スリーパーが運行するグッドナイト・トレインは、当初2022年の運行開始を目指しながら延期が続いていたが、今年5月25日にようやく開通する運びとなった。ベルギーの首都ブリュッセルとドイツの首都ベルリンを結び、途中でオランダのロッテルダムとアムステルダムに停車する夜行列車だ。さらに、アムステルダムではユーロスターに接続する予定で、英首都ロンドンからの乗客はこの列車に乗り継いでベルリンに向かうことができるようになる。来年には、ドイツ東部ドレスデンやチェコの首都プラハまで延長される予定。ヨーロピアン・スリーパーには、2025年にアムステルダムとスペイン北東部バルセロナを夜行列車で結ぶという野心もある。