世界のバカンスシーンをけん引してきた「クラブメッド」
フランスはバカンスの先進国だ。すでに19世紀後半には富裕層が夏を海や山の保養地で過ごすことがステイタス・シンボルとなっており、1936年のバカンス法制定を機に、すべての労働者に2週間の連続休暇が付与されるようになった。1982年には年間25日の年休が制定され、現在では約1カ月ほどの長期休暇を取ることが主流。取り切れなかった休暇は貯蓄し、現金化も可能だというから、うらやましい限り。8月のパリがガラリと閑散とした街になるのも当然というわけだろう。
そのフランスに拠点を置くのが、国際的なバカンス企業「クラブメッド」である。1950年、マジョルカ島に第1号となるリゾートをつくって以来、現在世界24カ国で75ものリゾートを展開。日本では87年に北海道サホロ、99年に石垣島、2017年に北海道トマムを開業。計3施設を擁していたが、2022〜23年にかけて北海道キロロに新たに2カ所のマウンテンリゾートを手がけることとなった。北海道という1エリアに4つの施設とは異例だが、その背景にはどんな戦略があるのだろうか?昨年12月に開業した「クラブメッド・キロロピーク」を視察に訪れていた同社アンリ・ジスカール・デスタンCEOに聞いた。
世界のスキーヤーが憧憬する日本のパウダースノー
「見てください、この素晴らしい雪を。これほど軽く、パウダリーな雪はサンモリッツ(スイスの高級スキーリゾート)やウィスラー(北米最大級のスキーリゾート)でも出会えません。我々が北海道に投資するのは、まさにこの雪が世界中からゲストを呼びよせると確信しているからにほかなりません」
97年に就任以来、実に四半世紀以上も代表を務めてきたデスタンだが、パンデミックを経て3年ぶりの来日となった。「『クラブメッド』は社名にMéditerranée (地中海)という言葉が入っていたせいか、ビーチリゾートの印象が強いのですが、創立まもない56年にはレザン(スイス)に開業し、ファミリースキーリゾートのパイオニアでもあるのです。現在は全75カ所のうち、25カ所をマウンテンリゾートとして展開しています」
現在、北海道では2030年度末までに北海道新幹線が札幌まで延伸されることを見越し、多くの海外資産が流入することで“日本の中の海外”のようになったニセコを筆頭に、不動産価格が高騰中。コロナ明けのインバウンド需要もあり、好機に沸いているエリアだ。そこに、「一時はシニア層に片寄りがちだったスキー人口の若返りも背中を押してくれた」ことも重なり、世界でも異例の1エリアに4施設を開発するという決断をくだしたのだという。
「もちろん我々のユニークなサービスが、マウンテンリゾートとしてのお客様のエクスペリエンスを最大化できるという確信にも裏打ちされてのことです」
リゾート滞在を快適にしてくれるユニークなサービス
その特徴的なサービスとは“オールインクルーシブ”。宿泊費はもちろん、ワインなどのアルコールを含む飲食代、軽食、アクティビティ、ショーの観覧などが支払いに含まれているため、ゲストは財布をもたずに滞在できるほか、エクストラの支払いを不安に思う必要もないという、画期的なサービスだ。その快適さ・利便性はクルーズでの旅をイメージしていただけばわかりやすいだろうか。
「リフト券も含まれているので、施設からゲレンデイン/アウトできるスキー場にまさに手ぶらでいける心地よさは他所では味わえません。ほかにお子さまをお預かりするキッズクラブや、スキーのグループレッスンなどのアクティビティも含まれているので、夫婦は大人同士の時間を楽しめます」
子ども至上主義のアジアとは異なり、大人同士の時間もきちんと楽しめるのはさすがフランス発祥の企業文化といったところだろうか。
「日本にはラグジュアリーなビーチリゾートはいくつもあると思いますが、同様のクオリティを楽しめるマウンテンリゾートはまだまだ少ないという印象をもっています。そこに我々のオポチュニティ(好機)があるのではないかと」
季節を問わずに楽しめるマウンテンリゾートがトレンドに
確かに日本のマウンテンリゾートはスポーツとしてのスキーやスノーボードに特化しがちで、ライフスタイルとして山を楽しめるリゾートはまだまだ少ない。
「キロロならゴルフやトレッキング、乗馬などのアクティビティはもちろん、山海の美味、ウイスキーやワイン、また歴史的な都市である小樽の街歩きなど魅力的なコンテンツがたくさんあるため、一年中楽しめます。現在、夏の休暇をマウンテンリゾートで過ごすことが世界的なトレンドとなっていますが、気候変動の影響もあり、夏を山で過ごすゲストはこれからどんどん増えてくるはず。今後の展開に大きな可能性を感じています」
23年には中国での更なる展開も予定し、今後3年間で、サンモリッツなどのマウンテンリゾートを含む17の施設を開業予定だという「クラブメッド」。海外渡航がままならず旅行業界が大きな打撃を受けたパンデミック期にあっても、世界各国で国内需要を伸ばしたことが結果的に「クラブメッド」の認知度向上に大きく貢献したという。
なるほど、この3年間で日本国内を旅する機会は多く、いままでに知らなかったローカルの魅力に気づいたという人も多いだろう。そこへコロナ明けのバカンス欲が爆発したら?今年の東京は8月のパリ並みに閑散とするかもしれない。
「『クラブメッド』は創業者ジェラール・ブリッツの『人生の目的は幸せであること』という言葉を大切にしています。幸せでいられる場所はここであり、幸せな時間はまさにいまなのです」コロナ明けの身にぐっとしみいる言葉ではないか。
クラブメッド
https://www.clubmed.co.jp/
Henri Giscard D’Estaing(アンリ・ジスカール・デスタン)◎クラブメッド会長兼最高経営責任者。1956年、仏パリに生まれる。1997年より現職。父はヴァレリー・ジスカール・デスタン第20代仏大統領。