気候変動が国家間の争いや経済活動に大きな影響を与えようとしている。気候安全保障の専門家に日本をとりまくリスクについて聞いた。
「気候安全保障」とは、気候変動が遠因となって起きる紛争や暴動のリスクを明らかにし、国や社会の安定を守る方策を考えるものだ。気候変動がもたらす異常気象、自然災害、海面上昇などは、移民増加、食料危機、資源競争など複雑な経路を経て、時に内戦や国家間の衝突につながりうる。
特に、農業依存や低開発の国などは気候変動に脆弱なため、これを遠因とする紛争や暴動のリスクも高い。また、脱炭素、エネルギー転換、地球工学などの気候変動対策も、国際政治に影響する。
日本も近い将来、気候変動で周辺地域や近隣諸国が不安定化すると間接的に影響を受ける可能性はある。
例えば、温暖化で海氷の解け始めた北極圏で航路、資源採掘、漁業などの新たな機会が開かれるにつれ、米国、ロシア、中国などの間で緊張が高まりつつある。北極海航路でアジアと欧州が結ばれれば、スエズ運河経由より3割ほど短くなり、関心は高い。北極圏での中国やロシアとの勢力争いは、新たな利害衝突の種となりかねない。
日本最南端の沖ノ鳥島は、約40万km2のEEZ(排他的経済水域)を支え、海底にはコバルトやニッケルなどの資源が豊富とされる。しかし2004年時点で満潮時に最大16cmしか海上に出ておらず、既に5cm近く海面が上昇。このまま海に沈めば、日本は周辺のEEZを失う。
中国は、いまでもこのEEZを否定しており、水没すればこの海域で活動を活発化するだろう。日本以外にも海面上昇で領土を失う国は多い。例えばある年を基準にその後水没しても領土とみなすなど、国際的なルールづくりを日本が主導すべきだ。
せきやま・たかし◎1975年、愛知県生まれ。財務省、外務省で勤務後、東京大、北京大、ハーバード大の各大学院で学ぶ。2019年より現職。博士(国際政治)、博士(国際協力)。