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2023.03.31 16:00

理想を求め、何度でも立ち上がる──生命保険100年の歴史を変えるために奔走するリーダー

連載第4回は、明治安田生命保険 取締役 代表執行役副社長の牧野真也氏とレノボ・ジャパンの安田稔が対談した。古い歴史を持つ生命保険業界において、デジタルによってその歴史を変えようとしているITリーダーの奮闘とモチベーションの源泉を紐解く。


当社の目指すDXは “人とデジタルの融合”
そこは「足し算ではなく掛け算」

安田稔(以下、安田): 牧野さんは、明治安田生命保険様において、2021年に代表執行役副社長にご就任されたと伺いました。それまでのご経歴を伺わせてください。

明治安田生命保険 取締役 代表執行役副社長 牧野真也氏

明治安田生命保険 取締役 代表執行役副社長 牧野真也氏


牧野真也(以下、牧野)
: 1983年に当社に入ってから、情報システムを担当し始めた2015年までの約30年は、いわゆるビジネス部門を渡り歩きました。商品開発やマーケット開拓、販売チャネルの業務など、一通り経験しましたね。

ですので、ビジネスサイドへの理解を自分の強みにして、現在の役職に就いた時から、デジタルとビジネスを双方の視点から結びつけてDXを進めていくことが自分の役割だと考えてきました。

ただし、“人”には「感じ取る」「考える」「発想する」といった“人”にしか生み出せない素晴らしい価値があり、お客様に寄り添い「確かな安心」を提供する使命を担う生保ビジネスにおいては、そのことを忘れてはならないと思っています。

私が考える当社のDXの姿は、「人とデジタルの融合」。融合とは、足し算ではなく掛け算です。人が果たす役割が大きい当社のビジネスにおいて、デジタルの力で社員一人ひとりのポテンシャルを何倍にも引き上げることを目指しています。

100年を超える歴史がある生命保険業界
その岩が動く転換点にDX推進の責任者として向き合う

安田:「攻めのIT」をまさに実践されているのですね。これは御社のトップを含め、経営陣のリーダーシップあってのものと思います。具体的には、どのような組織体制で施策を動かしているのでしょうか?

牧野:2021年に、DX戦略推進のドライバーとなる「デジタル戦略部」を創設し、デジタルによるビジネスモデルの変革を進め、全社への浸透を図ろうと日々奮闘中です。

このデジタル戦略部がリードして、ビジネスサイドの各部門と、従来からあるIT部門とを結びつけ、体制の高度化を進めています。正直なところ、まだまだ苦労が多い段階ですね。

当社では、かねてから内製化を基本にIT業務を進めてきましたが、これによって、ビジネスサイドとIT部門が相互に理解を深めながらデジタルに取り組める強みがあると思っています。ただ、実際にDX戦略を進める上では、まだまだIT部門への依存度が高いので、均整をとっていきたいと考えているところです。

私は、DXとは一部の人が担うのではなく、全社員が大きな “デジタルの傘” の中に入るべきだと思っているんです。そのために『DX戦略ビジョンブック』をつくり、社内イントラを通じて全職員へ配布しました。会社が何を考え、中長期的に何に取り組もうとしているのかを職員一人ひとりに理解してもらうためのものです。

加えて、デジタル庁が定める「デジタルの日」においては、「社内DX勉強会」を開催して、皆で共通カリキュラムを学ぶ取り組みもしています。さらには動画の配信や、社内の学習インフラ整備も進めて、あの手この手でデジタル推進をしています。

一方で、長年ウォーターフォール思考で開発を担ってきたIT部門も、今後はユーザーの声を早いサイクルで取り入れていくアジャイル思考へと発想を転換していく必要がありますね。

こうした変革の取り組みを地道に続け、職員もお客様も、意識しないほど日常にデジタルが溶け込む状態を目指したいと思っています。

レノボ・ジャパン合同会社 執行役員副社長 安田稔

レノボ・ジャパン合同会社 執行役員副社長 安田稔


安田:いま、御社をはじめ多くの企業が、デジタルの戦略立案と、職員のリテラシー向上に大胆な投資をしているようにお見受けしています。保険ビジネスは歴史が長いですよね。ビジネスモデルも価値観も根強い領域にデジタルを入れていくのは、ご苦労も多いのではないかと推察します。牧野さんのモチベーションの源泉はどのあたりにありますか?

牧野:生命保険業界は100年以上の歴史を持つ業界で、私が関わってきた30年間も業界の基本的なフレームワークは大きくは変わっていません。ところが、もしかするとこの10年の間に、デジタルの力で経験のない大きな変化に直面するのではないかという気がします。

デジタル社会で変革が起きるトリガーは、デバイスの浸透と、ネットワークの発達の2つだと思います。これらによって「常時接続の社会」がもう実現していますよね。

そうなると、生命保険が持つ存在価値に大きな変化が起きるかもしれません。100年以上変わらなかった生命保険業界の常識が、いま変わろうとしているんです。その歴史の転換点に立てていることが、何よりのモチベーションになっています。

DXとは、一方で“人間くささ”が進むことでもある

安田:DXによって実現された「常時接続社会」において、生命保険会社とお客様との関係性はどう変わっていくとお考えでしょうか? 生命保険の未来像をぜひお伺いしたいです。

牧野:デジタル化が進むと、生命保険は逆にウエットな、“人間くさい” サービスになっていくのだと思います。社員にとってもお客様にとっても、体験価値が変わるのです。

膨大なデータを集めて利活用することで、営業担当者がデータをもっと活用してお客様に深く向き合えるようになります。カスタマイズ提案できる幅が何次元にも広がるでしょう。お客様へのご提案の質を一定以上に保ちやすくもなります。

また、生命保険とは本来、契約後は24時間365日、常に保障が続いているものですが、お客様と常時コミュニケーションを取るのは難しいのが現実でした。ところがモバイルアプリによって、我々保険会社と常時接続されているようにお客様が感じられる世界になっているのです。デジタルの進化によって、保障も、コミュニケーションの在り方も、大きく変えていけるようになりました。

これまでは、当社とお客様という「1対1」の関係性がご契約者様の数だけ存在する状態でしたが、将来はデジタルによってお客様同士がつながる世界が実現するかもしれません。生命保険はお客様にとって身近で、心地よく、一人ひとりにしなやかに寄り添ってくれる存在であるべきです。体験価値を高めるお客様とのコミュニケーションを生み出すために、我々が持つ「常識」を必要に応じて大胆に変えていく勇気を持たなければなりません。

世の中のデジタルの進化は、今後も指数関数的に伸びていくでしょう。かつ、一度進んだら戻らない、不可逆的なものでもあります。当社の本格的なビジネスモデル変革はこれからとなりますが、まだ見ぬ未来を想像すると、気持ちが高まるばかりです。

自己認識では、むしろ崩れやすいタイプ
ただ「今日崩れても、明日は立ち上がる」が哲学

安田:牧野さんご自身は、大きな理想像に向けて邁進されているところだと思います。おそらく、次から次へと乗り越えるべき壁が目の前に立ちはだかっている状況ではないのでしょうか。どのようにご自身をマネジメントされていますか?


牧野:もっとデジタル発で商品やサービスをデザインしていきたいのですが、まだまだ道半ばです。歴史の長い業界ですので、構造を変えるには “胆力” が要りますね。

私自身は、ストレス耐性があるわけではなく、むしろ崩れやすいタイプだと自己認識しています。ですから、自分の哲学としては、崩れるものは仕方がないので、立ち直る力を高めようと。今日崩れても、明日普通に立ち上がることに力点を置くようにしているんです。その繰り返しで、ここまでやってきました。

ストレスに抗うと、また別のストレスが生じるともいいますよね。なので、悲しい時は悲しみ、苦しい時は苦しむ。大切なのは、時代の流れに乗って、何度でも立ち上がることだと思っています。

安田:ありがとうございます。明治安田生命様が提供していく新しい「確かな安心」を、楽しみにしています。そして、レノボ・ジャパンも御社と一緒に、日本のDXを進化させていければと思っています。これからもよろしくお願いします。


牧野真也(まきの・しんや)◎1983年、同志社大学 経済学部卒業。同年4月、安田生命保険相互会社入社(合併により、2004年に明治安田生命保険相互会社に改称)。明治安田生命保険相互会社 富山支社長、営業人事部長、商品部長などを経て、2021年7月より、取締役 代表執行役副社長。

安田稔(やすだ・みのる)◎1985年、明治大学 工学部卒業。デュポン・ジャパンでの営業経験を経て、1994年、コンパック日本法人入社。以降ITトップカンパニーで事業責任者を歴任。2015年8月、レノボ・ジャパン入社。同年レノボ・ジャパン 執行役員専務、NECパーソナルコンピュータ 執行役員に就任。2018年5月より、レノボ・ジャパン執行役員副社長。

日本のDXを牽引する “IT改革者たち” の脳内
第1回 丸井グループ 海老原 健氏 
第2回 沖電気工業 坪井 正志氏
第3回 マツダ 木谷 昭博氏
第4回 明治安田生命保険相互会社 牧野 真也氏(本記事)
第5回 三菱電機 三谷 英一郎氏

Promoted by レノボ・ジャパン / text by Takako Miyo / photographs by Yutaro Yamaguchi / edit by Kana Homma