ギルダーはこのレターの中で、ウォール・ストリート・ジャーナルの1面に載ったある記事に言及している。世界経済の底堅さをテーマとするこの記事は、経済が堅調であるがゆえに「いまだに少々過熱気味の経済に、さらなる冷水」を浴びせるために「各国の中央銀行が、主要政策金利をさらに引き上げる必要がある」との判断に傾く可能性があるとしている。
本記事が言わんとしていることが事実かどうかを確かめるためには、中央銀行のトップが考える「真実」とは何かという点を押さえておかなければならない。
中央銀行のトップたちは、あらゆる論理と経験に裏打ちされた現実に逆らって、「経済成長は物価の上昇を招く」「物価の上昇とは、すなわちインフレーションだ」という2つの誤った考えを信奉している。
この2点において、彼らは経済の基本についてとてつもない誤解をしている。そのため、彼らが持つとされる権力は、現実というよりは空論であることがわかる。そうした無知な人たちが、中央集権的なひどい思いつきを世界経済に押しつける権力を実際に持っているとしたら、現状について、貴重な時間やリソースを費やして本や記事を書く気にもならないはずだ。
エコノミストや中央銀行のトップは「消費が経済を動かしている」というが、純然たる事実は投資こそが経済成長の原動力というものだ。そして、投資の目的は、より少ない「手数」で、さらに多くの財やサービスを生み出すことにある。要するに、経済成長の最も確かな兆候は「物価の低下」だ。これはごく基本的な話だ。
では、インフレーションとは何かというと、これは測定単位における下落だ。米国の場合は、この測定単位とはドルになる。
近年はドルが大幅に下落する局面はなかったため「インフレーションが起きている」とする昨今の言説には疑義が生じる。確かに、現在物価は上がっている。しかし「物価の上昇がインフレーションを起こす」というのは「熱が太陽を輝かせている」というようなもので、因果関係があべこべだ。
確かに我々は、またしても物価の上昇に直面しているが、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによるロックダウンの後で、これは意外なことだろうか?
確かに、コロナ禍をめぐる政治的なパニックが、投資を停滞させたのは間違いない。しかしその後、世界の人々は再び連係するようになっており、これが進めば物価は下落に転じるはずだ。
2020年3月以降は、この世界的な連携に、程度はさまざまながら亀裂が生じ、機能不全に陥っていた。グローバルな生産のメカニズムに「待った」がかけられたことで、これまでのように効率的に、安価に生産を行うことができなくなったこと、そして物価の上昇が起きたことは、当然の帰結だろう。