経済

2023.03.24 10:30

世界の中央銀行は「世界経済に対抗できない」

Getty Images

では、今起きているこの現象はインフレーションだろうか? そうではない。インフレーションとは「貨幣価値の低下」を指す言葉であり、それ以外の意味はない。
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世界各国の中央銀行のトップに話を戻そう。彼らは、中央集権的な指揮統制によって生じた物価の上昇を、インフレーションだと誤解している。この誤解に加えて、彼らは、現在の物価高を是正するには世界規模の経済引き締めを実行するしかないという誤った考えを抱いており、二重の意味で過ちを犯していると言える。

これはあり得ない話だ。ご存知のとおり、各国の政府は、すでに一度、つまり2020年に世界規模の経済引き締めを試している。この暴挙が物価高を招いたわけで、理論的に考えればこれは当然の話だ。

「グローバルな協力体制の下での大規模な投資」こそが、物価の引き下げにつながる道だ。これはすべて、政府が介入を控えることによって促進される。しかし中央銀行のトップは、企業の倒産や失業こそが、物価下落につながる道だとの信念を抱いている。このような姿勢を「少々」混乱していると評するのは、たとえ控えめな表現だとしても、控えめの程度が過ぎるだろう。
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ゆえに我々は、中央銀行に実際にはそれほどの権力がないことに安堵すべきだ。中央銀行のトップに、自身の「敗者の経済モデル」が引き起こす損失を現実のものとする力があったなら、世界経済はおそらく破綻していたからだ。

だが、実際には経済が破綻していないのは、喜ばしいサインだ。これはつまり、中央銀行のトップたちが空論をもてあそぶ一方で、実際の生産はそれに関係なく、たゆみなく歩みを進めていることを意味するからだ。そんなことが可能なのも、グローバルな資本の流れが、中央銀行の内部で中央集権的な計画を立てている者たちを顧みることなく、着実に機能しているからこそだ。

この明白な事実を裏づけるさらなる証拠が、英国の半導体ユニコーン企業のArm(アーム)だ。ケンブリッジに本拠を置くこの企業については、思わず笑ってしまうような話がある。ウォール・ストリート・ジャーナルが、中央銀行のトップに対する不満を述べた前述の記事に1面を割いたのと同じ日、同じ1面に、アームがロンドンではなくニューヨークの証券取引所に上場するとの記事が掲載されたのだ。

「閉鎖的」ともされるが、実際はグローバルに展開されている経済の在り方が、残念な中央銀行総裁たちと、新聞の1面で鉢合わせしたという構図だ。

中央銀行が、インフレーションの本質を理解せず、定義を誤り、信用を収縮しようという虚しい試みを続けるなかでも、世界経済は機能し続けている。それも当然だろう。官僚はあくまで官僚であって、官僚以外の何者でもない。中央銀行のトップについても、それは同じだ。中央銀行は、虚しく自身の存在目的を探し続けるが、その間も実際の経済活動は、彼らの経済的な無知を尻目に、問題なく続いていくはずだ。

forbes.com 原文

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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