とはいうものの、ドナルドソンの目には、YouTuberの立ち位置が、インフルエンサーのなかで依然として下位のままに見える。「YouTuberというクリエイターがもつ影響力というものを、みんな理解していない」と、ドナルドソンは嘆く。
単純な行為にこそ勝算あり
ドナルドソンは、米軍に在籍していたシングルマザーの次男として各地を転々としながら育った。恥ずかしがり屋の少年は、母親が週2回夜勤のときには、夜も1人で過ごすことが多かったという。YouTubeデビューは、2012年、13歳のとき。「ミスタービースト6000」というハンドルネームで、兄のお下がりノートパソコンを使って音なしの動画を撮影した。2016年、コミュニティカレッジに入学して2週間で中退し本格的にクリエイターの道に進む。怒った母親に、家を追い出された。
人気に火が付いたのは、ドナルドソンがホームレスの男性に1万ドルを渡すところを撮影した動画だ。1万ドルはブランドとのスポンサー契約で最初に稼いだものだ。お金を渡すという単純な行為が生むバイラル効果に気づいた彼は、見知らぬ人に大金を配る自撮りを開始する。
2020年までに、年間2400万ドルを稼ぐようになった。翌年には、その額は2倍に膨れ上がった。「今後5〜10年間、世界最大のYouTubeチャンネルの座を維持できれば、チャンスは無限大になる」と、ドナルドソンはランボルギーニと大量のドル札に囲まれたスタジオで意欲を語る。
ネットでの名声を得たドナルドソンは強い関心を、ビジネスにも向けている。2022年1月、食品販売会社「フィースタブルズ」を設立。オーガニックカカオと6種類未満の原材料で製造した賞品付きのチョコレートバー「ミスタービースト・バー」の販売を開始する。わずか3カ月間で販売数は400万個を記録した。現在オンラインとウォルマートの4700店舗で販売されている。ドナルドソンが過半数株主で、ベンチャー投資家が20%の株式に500万ドルを出資したといわれている。
2万人が並んだミスタービースト・バーガー
もっとも、最初のビジネスは2020年12月に始動したバーチャルレストランの「ミスタービースト・バーガー」だ。これに次いで成功を収めた「フィースタブルズ」は、粗利益率がバーガーチェーンの約30%に対し、約40%と高い(リーチ数はミスタービースト・バーガーに軍配)。2021年の年間売上高は7000万ドルを達成。2022年は1億ドルに到達する勢いだ。世界進出も予定している。一方、弱冠22歳で起業したミスタービースト・バーガーは、プラネット・ハリウッドのロバート・アールが所有するバーチャル・ダイニング・コンセプツとのジョイントベンチャーで設立された。起業から2年経過したいま、ドナルドソンは会社全体を自身でマネジメントしたいと強い意欲を見せている。が、2021年の彼の出資額は300万ドル程度で、その年の売り上げの4%に過ぎない。売り上げを伸ばすため、ドナルドソンは行動に出る。初の実店舗をニュージャージー州のアメリカン・ドリーム・モールにオープンさせたのだ。当日店に立つ彼を目当てに、約2万人のファンが列をなした。1日の販売数は5000個という驚異的な記録を出した。現在、ミネソタ州のモール・オブ・アメリカにも出店準備中だ。
動画やビジネスに対してクリエイティブなアイデアのつきないドナルドソンは、自身についてこう分析する。
「自分がやっていることは、まるでゾンビのようですよ。四六時中それにとりつかれて、朝目覚めても同じことを度が過ぎるまで繰り返してしまう。ほんと、仕事しか、眼中にないんです」