テクノロジーが進展してUXが追いついてきて、社会的にも受容する段階になったら、最終的にはWeb3ネイティブなビジネスが普及していくのでしょうが、そこにマスを導いていくには、第2象限・第3象限の領域における試行錯誤が必要になってくるんでしょうね。
高宮:マーケットのニーズにテクノロジーがアジャストしていく過程の中で、現在乱立する数々のブロックチェーンの間で、用途に対する最適化や棲み分けが起こってくると思います。Web3はプトロコル部分がファットなビジネスだと言われてきましたが、用途ごとにチェーンが最適化されていき、過剰にファットになりすぎた部分が削ぎ落とされる揺り戻しの現象も起こるのではないでしょうか。
吉川:高宮さんのWeb3ビジネスマトリックスは私も実体験として、とても共感する部分があります。私が勤務するRipple(リップル)では、創業時から「マーケット・イン」的な発想を大事にしていて、現実世界の問題を解決することに専念してきました。
例えば、国際金融の中でも最も摩擦が多いとされている国際送金の問題を解決するためにブロックチェーンを活用してきました。Web3ネイティブな発想だと、誰もが自己管理型のウォレットを持ち、ピアツーピアで送金できるという世界観ですが、それだと今の段階ではニッチなビジネスになってしまう。それよりも、国際送金サービスをエンドユーザーに提供している金融機関に対して、ブロックチェーンを活用したソリューションを使ってもらうことでより大きなインパクトを比較的短期間で出せると考えたのです。
高宮:Web3というといきなりWeb3ネイティブに飛び込み、一気に革命を起こそうという動きばかりがクローズアップされることが多いですが、そのような領域では想像したこともないような新たな価値が“発明”できるか、そのような価値が社会やユーザーに受容されるか、そのタイミングはいつかといったことが論点となります。
その点、一足飛びにWeb3ネイティブなサービスを発明しマスアダプションさせていこうとするのは、ハイリスク・ハイリターンの戦略といえるでしょう。Web2.5的に、実需、実課題に基づきプラクティカルに問題を解決するビジネスももっと注目されていいと思います。
吉川:私がWeb3業界で働いている中で痛感しているのは、高宮さんのマトリックスの中での象限間の移動は、バイナリ的ではなく、グラデーション的であるということです。サービスは様々な構成要素、つまりレゴブロックのような塊がつながってできていると考えた場合、その中でWeb3化できる部分と従来のやり方でやった方が良い部分というのは分かれてきます。
その判断はテクノロジーのレディネス(readiness:準備状態)、社会のレディネス、顧客のレディネスなど複合的な要因に基づき、そこに柔軟にコンビネーションを考えていくことが重要なのではないかなと思います。